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「…」


覆面パトカーには最適かもしれないが、警察の"け"の字も見つからない車両に威厳は全く感じられない。
どうせなら普通の車が良かった。
そう嘆いても無意味なことは理解してるけど…

“まるごとメロンパン”と書かれたトラックが今、私の目の前にある。
緑と白の車体にポップでキャッチーな名前。新たな機捜404車両だ。



「どうしたA」

「いえ、何も」

いけない、と首を振って後ろに乗り込む。
隊長からは「廃車になるような運転はするな」「安全に慎重に」と念を押されたから、もうあの車の二の舞にはならないだろう。


「しゅっぱつ!」


子供のような掛け声を1人でかけて伊吹さんの運転で署を出る。


「2人ともノリ悪いよ?」
「「…オー」」











署から走り出して10分程、信号待ちをしていると女子高生2人が志摩さん側のドアを叩いた。どうやらメロンパンが欲しいらしい。

「1ついくらですか?」
「え??」
「反応するな」

「メロンパン!」

志摩さんが窓を開けて対応する。警察車両なんて誰も思わない風貌だから仕方ないけど…
私は巻き込まれたくなくて目を閉じた。


「ごめんね。今ねー、売り切れなんだ」

「苺味お願いします!」
「苺味いいね〜」

「おい青だ、早く出せ」
「分かってるよ」

信号が青になったのをいいことに、女子高生から逃げるようにして車を走らせた。




「メロンパンいくらにする?1個1000円?」
「売れませんよそんなの」

「だってメロンまるごと入ってんだよ?」

「いや入らないだろ!
 まるごとって言うのは雰囲気、例え。比喩。」

「えー…ガッカリ」


伊吹さんは期待が無くなってショックらしい。その反面私は呆れて何も言えない。



「おばちゃん、メロンまるごと入ってないんだって。」


伊吹さんは狂ったのか大きな独り言を言った。というより誰かに話しかけている?


「誰に話してんだよ」
「隣の車、さっきからずっとこっち見てんだよ」


伊吹さんが目が合うという隣の車のおばちゃんに話しかけている。目が合うからといって話しかける理由がわからないが。


「伊吹さん、余所見は危ないですよ。
 ほら、前動いてる」


納得いかない表情で発進する。
幸い、前後に車はいないから真っ直ぐ走れば事故りはしないだろうが、伊吹さんはずっと隣の車に気を取られている。



「…310円」
「何が?」
「メロンパンの値段」

志摩さんは真剣に考えていたのか今更ポツリと呟いた。



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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月12日 0時

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