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数時間後_
伊作side
「じゃあ、伊作先輩……よろしくお願いします。」
「うん。大丈夫、目を覚ましたら必ず知らせるよ」
夕暮れの保健室。
ずっと看病を手伝ってくれた一年生三人の背中を見送って、僕はそっと障子を閉めた。
新しい水を入れた桶で布を絞り、まだ布団で眠るAちゃんに目線を移す。
「乱太郎達、すごく心配してたよ」
もちろん、彼女から返事が返ってくることはない。
けれども少し近づけばすぅすぅと繰り返す呼吸音が聞こえて、僕は思わず大きく息をついた。
「……良かった、大した事なくて」
_今まで何度も、かなりの病気や目も当てられない程のひどい怪我を診てきた。
けれど、突然倒れたというAちゃんが保健室に運び込まれてきたとき、僕の頭は真っ白になった。
軽い暑気あたりと疲労……適切な処置をしていればそこまで大したことは無いのに、死んでしまったらどうしようと不安になった。
……理由は、自分でもなんとなく分かっているんだけど。
"伊作くん"
脳裏にまだ残る、僕の名前を呼ぶ声_
あの人は優しくて明るくて、でも簡単に消えてしまいそうで、それで、いつも悲しそうだった。
「……Aちゃん。君は、やっぱり似てるんだ。あの人に……」
そっと、熱で少し紅色に染まった頬に触れる。
……ずっと働き詰めで、疲れていたんだろう。
それだけじゃない、心労も絶えなかった筈だ。
今だけでも、ゆっくり休んでほしい。
どうか、あの人のようにならないで欲しい……
そう願わずには、いられない。
『ん……』
閉じていた瞼が、ゆっくりと上がる。
どうやら目を覚ましたようだ。
『あれ……私』
身体を起こしてきょろきょろと周りを見回すAちゃん。
僕は、先程の不安などまるで無かったことのように微笑みかける。
「気分はどうだい?」
『えっ、わっ、伊作さん、な、なんで?』
「あれ、覚えてない?Aちゃん、仕事中に倒れてここに運び込まれてきたんだよ」
彼女はどうやら倒れたところで記憶が途切れていたらしい。
暑気あたりと疲労で倒れてここに運ばれてきたこと、乱太郎、きり丸、しんべえがとても心配していたこと……僕は、これまでの経緯を説明した。
ただ、三人と共に彼女を担いできた喜八郎からは「本人には言わないで下さい」とのことで、それは伏せたけれど……
『そんなことが……迷惑かけて、すみません』
頭を下げるAちゃんに、僕は首を横に振った。
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海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時