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Aside
『お願いです、ここで働かせて下さい!』
「いやいや、そんな急に来られましても……」
思いっきり頭を下げると、その騙し絵みたいな顔の人は困ったような表情を浮かべた。
仕事をもらうべく、私は今、事務室に来ている。
ここでは剣術の練習以外に特にやる事はないし、かといって置いてもらっているのに何もしないというのは、なんだか腑に落ちない。
だったら何かやらせて貰えないか、そう思いついたのである。
『どんな仕事でも、一生懸命やります!』
「そう言われましても……」
この人が渋っているのは、恐らくは私が天女であるからなんだろう。
無理もない、私だってその立場なら答えに困るはずだ。
でも、ここで引き下がる訳にはいかない。
『雑用でもなんでもいいんです!それに、自分の身は自分で守れます。』
「しかし、学園長先生にはなんと……」
『私が説得します、必ず!』
「……」
ひととおり私の訴えを聞いたその人は、難しそうに眉を寄せた。
暫しの沈黙の後、その人はやがて頷き、顔を上げる。
「わかりました。任せられる仕事を探しましょう」
『っ、ありがとうございます!』
……良かった、納得してもらえた。
これで"何もしない"は避けられる。
強張っていた身体から力が抜け、私は思わず息をついた。
「では、こちらへ」
『あっ、はい』
促されるまま部屋に上がる。
私が座敷に座ると、その人は突然、障子の向こうに向かって声を掛けた。
「小松田くん、お茶を」
「はぁーい」
間延びした返事、遠ざかっていく足音を聞いて、私は首を傾げる。
『お茶?』
「ええ、とりあえずご一服をと。気に障りましたか?」
『いえ……ありがとうございます』
なんだか強引な印象を受けたけど、気のせいだと思うことにした。
部屋にはどこか緊張した空気が流れて、私は再び顔を伏せる。
……大丈夫、だよね。
流石に先生ともなれば事情も把握しているはずだし、間違っても私情を挟む事はないだろう。
「失礼します」
そんなことを考えているうちに、再び襖が開いて、若い男の人が入って来る。
目が合うと、あからさまに彼の顔が青白くなった。
「てっ、天女様……」
まるで恐怖感を示すように、その手に握られた湯呑みがぐらぐらと揺れる。
なんだか危ないな、なんて思ったその時。
「うわあっ」
『えっ』
バランスを崩した彼が、そのまま床へと転んで_
ふたつの湯呑みが、こちらへ飛んできた。
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海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時