28 ページ30
綾部喜八郎side
朝。
いつもより遅く教室に入れば、組中は当たり前のように"天女"の話題で持ち切りだった。
朝から食堂で騒ぎを起こしたやら、男の格好をして竹刀を背負って追いかけてくるやら……
真偽の分からない噂が、飛び交う。
「おいお前、四人目の天女見た?」
「見た見た!早速偉そうな面して歩きやがって」
「近づかないでおこうぜ、妖術にかけられたら俺ら終わるぞ」
「はあ」
天女、妖術、危険……
辺りから聞こえるそんな会話に、僕は思わず溜息をついた。
長机にドンと教科書を置けば、座って予習を確認していたらしい同室がこちらに顔を向ける。
「おはよう喜八郎」
「……滝夜叉丸」
先に起きていたらしい彼は、今日も今日とて戦輪を片手に自信満々な笑みを浮かべていた。
まだ眠気が残る頭で、今朝起きた時には既に横の布団が畳まれていたことを思い出す。
「どうして起こしてくれなかったの」
そう尋ねると、滝夜叉丸は呆れたように目を細めた。
「お前が起きなかったんだろう」
「仕方ないでしょ、昨日の夜は……忍務だったんだから」
忍務、という言葉に滝夜叉丸が目を見開く。
そしてちらちらと周りを見回してから、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で囁いた。
「……それで、天女はどうだったんだ」
_僕の昨日の忍務、それは"天女に接触する"ことだった。
接触して、会話をし、対象を探る。
だから昨日は長屋周辺の庭中に穴を掘り、天女が落ちるのを待ったのだ。
"だ、誰!?"
やがて計画通り、天女は落とし穴にはまった。
……はまった、のだけど。
"……っぐ、"
"せ、成敗!"
今でも鮮烈に思い出される鈍痛。
その後は、完全に予想外で想定外に終わってしまった。
「……強かったよ、天女」
「何っ!?戦ったのか?」
「おかしいなあ、立花先輩に言われた通りに懐柔しようとしたんだけど」
……結局、探るどころか逆に興味が湧いてしまったのだ。
"天女"ではなく、"あの人"自体に。
「でも面白かった、妖術じゃなくて拳使ってくるんだもん」
「はあ?こぶし?」
意味がわからないと言わんばかりに、首を傾げる滝夜叉丸。
僕は、思い出すだけで込み上げてくる笑いを抑えた。
「よく分からんが、喜八郎……決して気は許すなよ」
「……はいはい、言われなくとも」
その真剣な表情に、分かってるよ、そう言いかけた声は鐘の音に遮られる。
喧騒の中、向こうに広がる青空をずっと見ていた。
177人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時