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……また、この人か。
今更敬語なんて使われても、そう心の中で呟く。
私は何と答えるべきか少しだけ逡巡してから、やがて口を開いた。
『私がいてはいけないんですか?』
質問を質問で返すのは、少し感じが悪いかもしれない。
ただ、心に芽生えた僅かな強がりと決意が、私を突き動かしている。
「……いけない、という訳ではありませんが」
案の定、三郎さんは明らかに怪訝な表情を浮かべ、声を強張らせた。
思わず目を逸らしたくなるけれど、私は真っ直ぐに彼を見つめて次の言葉を待つ。
この表情にこそ、正面から向き合わないといけないからだ。
「食事くらい、部屋まで持って来させれば良いものを」
『わざわざ持ってきて頂くのは恐縮です。それに、あなた方は食事を届けるだけでは済まないでしょう?』
「しかし、お言葉ですが……この場の雰囲気をお察しになられないのでしょうか。皆が怖がっています。」
『何もしていないのに怖がられないといけないんですか?』
_ああ言えばこう言う。
我ながら、よく回る口だと思った。
あちらからすればこれは嫌な言い方であるというのも分かるし、本当は少しだけ心苦しい。
それでも、"天女だから"だなんて、意地でも言わせたくなかった。
「何もしていない、だと?」
やはり癪に触ったのだろう、掴みかかりそうな勢いで声を荒げる三郎さん。
……きっと、この人は天女にたくさん傷つけられたんだろう。
大切なものを、壊されてしまったんだろう。
でも、それでも_
おもむろに箸を置き、私は立ち上がる。
そして三郎さんにだけでは無く、この場の全員に向かって、言い放った。
『先程からあなたがおっしゃっているのは、"天女"のことでしょう?ならばそれはお門違い……私は、私です!』
……そう、私は私。
他の誰でもない、月原A。
「なっ……、」
流石に圧倒されたのか、三郎さんは口を噤んだ。
『……私は、ただ、』
周りの人達の騒めきが耳を通り過ぎて、私は次に続ける言葉を思案する。
けれど、これもまた三郎さんに遮られてしまった。
「……調子に乗るな」
こちらを睨みつける鋭い目に、まだ続くのかと身構える。
その時、私でも三郎さんでも無い、第三者の声が食堂に響き渡った。
「もうやめなよ、鉢屋。君の負けだ」
『……!』
驚いて声のする方を見れば、深緑の制服が目に入る。
"伊作先輩"……そう三郎さんに呼ばれた彼は、困ったように微笑んだ。
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海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時