それは紙一重 (ページ27)

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なんだろう、この心地のいい揺れは。

まるで車の揺れみたいな…。

「ん…、」

目を開けると、目の前に広がった世界はタクシーの中

だとすぐに分かった。

そして、私は誰かの体に寄り掛かった体制でいること

に気づき、ガバッと身体を起こすとそこには…、

嘉「あ、起きた？」

窓を見つめていた嘉くんが、こちらに顔を向けたの

だ。

「よっ、嘉くん？！えっ？！あっ…な、なんで…？」

まったく今の状況も分からなければ、どうして嘉くん

とタクシーに乗っているのかも分からなくて、パニく

る私。

嘉「フフッ。全然覚えてないの？」

クスクスと笑う嘉くんだけど、案の定まったく思い出

せない…。

確か、カナちゃんの歓迎会でヤケ酒して、眠くなっ

て…あれ？

私の記憶はそこでプッツリと無いことに冷や汗が出

る。

「もしかして…私、お店で潰れた…？」

嘉「まぁ、そんなとこかな。竜太くんにピッチ早いっ

て止められてたのに、どんどん飲んで…最終的に寝

た。笑」

やっちまったー！！！

歓迎会の席で潰れて寝るとか、私どんだけなのよ…。

「ほんっと、ごめんなさい！！調子乗りすぎまし

た…。」

私はこれでもかってくらい座りながら頭を下げれば、

嘉「まぁ、今日は俺たちだったから良かったけど、他

の席では危ないからダメだよ？」

「はい…。」

こんな時でも、ちゃんと女の子扱いしてくれる嘉くん

にキューンとくる。

「…あれ？みんなは？！カナちゃんは？！」

そんなのも束の間で、この場に嘉くんと私だけしかな

い状況に今更、疑問を覚えた。

嘉「あー…、カナちゃんは力也と将が送って行った。

力也だけで、送り狼になってもダメだしね。笑

他は先に帰ってもらったよ。」

「なっ、なるほど…。」

だけどカナちゃんと良い感じだったかもしれないの

に、嘉くんがここにいることが引っかかる。

「私なんかより、カナちゃんの方に行きたかっただろ

うに…ほんとごめん…。」

膝の上の鞄の取手を握る手に、力を入れる。

私、めっちゃ空気読めない女じゃん…。

人の恋路を邪魔してさ…。

嘉「いつもお世話になってるんで、これくらいします

よマネージャーさん。」

前を向いたまま笑って言う嘉くんの横顔は、通り過ぎ

るネオンの光が当たって、いつになくキラキラしてい

た。