第1章-8 ページ9
「え?『奴ら』?救急車は呼んだの?」
「繋がらない」
「え!」
「落ち着いて聞いて」
「…………何」
「バイオハザードが現実になった」
「……は?」
「でも感染経路とか症状に差があって、そこはよく分からない……。完全なバイオハザードとかアイアムアヒーローって感じじゃなくて、どっちかっていうと……」
「ちょっとちょっと、夏ゲームとか分かんないんだけど」
「バイオハザードの映画は分かるしょ」
「分かる」
「それ」
「いや……え……え?」
脳内処理が追い付いていない様子の夏。
そりゃそうだろう。
「とにかく」
でも私はそんな夏に構わず続ける。
今は一刻を争う。
「救急隊員は駅とか、病院とかにもいるはずだから、直接行って連れてくる。お母さんを治してもらおう」
「もしそれまでにお母さんが……ゾンビ?になったら……?」
「お母さんは、ゾンビにはならない」
「…………本当?」
「多分。だってお母さんがこうなったのは、奴らのせいじゃないし」
あの狂った寮父のせいだし。
「……」
「なったら……なった時に、考えよう。家から追い出してもいい」
「…………わかった」
我ながら残酷な姉だ。
まだ精神的に幼い夏を元気づけるように言いながら、本当は――自分で残酷な決断をすることから逃げたんだ。
最終的な判断を、よりによって中学生の夏に委ねた。
でも夏も『一緒に外に行く』とは言わなかった。
そりゃそうだ。家にいるほうが安全なんだから。……人間なんて、そういうものなんだ。
だけど、それが悪いことなんて――言っちゃいけない気がする。
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時