検索窓
今日:21 hit、昨日:11 hit、合計:4,846 hit

第1章-5 ページ6

「工場」

 訳の分からないことを呟きながら寮父はそのままリュックを背負い、家から静かに出ていってしまった。
 あっという間に車が家から遠ざかる。

「……最低」
「お姉ちゃん!終わった!お母さんの火、消えたよ!うわやばっ真っ白」

 車が去っていったほうをひたすら睨んでいると、夏がお風呂から濡れた足で走ってきた。

「ありがとう、でかした」

 わしゃわしゃと頭を撫でてやると、夏は安心したように、その場にへたり込んだ。

「でもお母さん痛そう……どうしよう」
「そのまま布巻いたままにして。薬とか塗っちゃダメ。痛がったら水で冷やして。流水でもいいし、湯船に水もっかいためるのでもいいし」
「わかった。お父さんは……?」
「知らない。もう戻ってこないんじゃない」
「え……」
「さ、早くおかあさん手当てしてあげて」
「……わかった」

 夏は再度お風呂に駆けていった。
 その間に私はポケットに入っていたスマートフォンから119番をしてみたが……誰も出ない。

(全員が出払っているというのはあり得ない)

 消防署は救急隊が常駐する出張所の他、総務部や警防部が置かれる本部が別の場所にある。どの出張所にどのくらい救急車や消防車を配置すればいいのか、また人手が足りないのはどこかを常に把握し、チェスのように駒を動かす。戦略ゲームっぽくて私は好きだ。

(ということは、その指令室に何か問題があったってこと?)

 先ほどの寮父の「わけわからん連中ばかりだ」の発言が気になり、スイッターを開く。

『ゾンビ!』
『いや、屍人だろ』
『なんかZQNみたいなやついる』
『皆何言ってんの?』
『いいから外見ろ』
『意識がある奴とない奴がいる』
『やばい』
『助けて』
『襲われた痛い』
『笑いながら襲ってくるの快楽殺人集団でしょ』
『日本オワタ』
『田舎民のワイ勝ち組』
『世界もやべえ』
『パリやば』
『都会から死んでいく』

 ……無数の呟きが流れていく。
 動画をあげてる人もいた。逃げ惑う人に、襲い掛かる人。ゾンビは『よだれを垂らしながら両手を前に出して襲ってくる』ってイメージがあるけど、目の前で繰り広げられる映像は、それよりも喧嘩という印象が強かった。
 なにせ、人を噛んでいない。殴って蹴って、引っ張って。
 角度がずれ地面しか見えなくなった動画に、たらり、と赤黒いものが右上から流れてくる。
 それが何かなんて、聞く方が野暮だ。
 え、でも素手だったよな……?どんだけ力強いの?何?こいつら。

第1章-6→←第1章-4



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (8 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
設定タグ:天王() , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。