第5章-5 ページ41
ビーさんからの忠告はしっかり覚えていたけど、緊張感もなくなりかけていたその日。窓の外に突然黒いオーラが流れてきた。
「……来た」
ついに来た。
政府の奴らが。
家の中に、一気に緊張した空気が流れる。
とっさに夏がテレビを消した。バラエティなんてもう機能していない。TVは政府をバッシングするか称賛するかのどちらかに分かれ、何が正しい情報なのか分からなくなっている。さっきまで見ていた番組では女性キャスターが『新人』は政府に反抗を続け、暴動は勢いを増す一方』と延々と視聴者に伝えていた。きっとビーさんたちが治療を続けているんだ。
だからなのか、政府は既に妥協案を出していた。
投降した者は保護し、管理下に置くーーと。
どのくらいその情報が信じられるものかは分からないけれど。その政府が、ついに来た。
母は震える夏や妹たちを抱きしめる。
黒いオーラは徐々に窓の外が見えなくなるくらいの濃さになる。
私たちの家の前にいるんだろう。
「……お前たち」
父が私たちを呼び寄せる。
私たちは何も言わずに、寄せ集まって抱き合った。
これが最期になるかもしれないということを、きっと全員が察していた。
「――投降する」
父は静かにそう言った。
「政府の下でどういったことがされているのかは分からん。実験三昧かもな。だけど生きていればそのうちいいこともある」
「……そうね」
母が呟き、夏と私が頷いた。下の妹たちはぎゅっと私たちにしがみついている。
「まだ諦めるな」
父は続ける。
「政府の下から逃げ出せたら、各自『moi』を探すんだ。いいな」
全員が頷くと同時に、インターホンが鳴る。
父が緊張した面持ちで頷き、玄関扉を開けた。
私たちは廊下からこっそりと様子を見守る。
扉を開け、すぐさま両手を上げる父。
良く聞こえないけど、父が何か言っているのが聞こえて、そして――
鳴り響く銃声。
その場に倒れ、頭を強く打つ父。
甲高い声で悲鳴を上げる母。
「お父さん!」
私も叫び、父の元に駆けよる。
「邑!行かないで!」
後ろで母が叫んでいるが、私はとにかく父が心配だった。だって、その倒れ方は、まずくない?息をしているかどうかすら、怪しいような。
「お父さん、お父さん!」
身体を揺するが、父は微動だにしない。胸に耳を当てる。心臓の音は、聞こえない。
(死ん……え?)
(『新人』なのに……?)
(抗体遺伝子がもう出来たってこと?)
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時