第5章ー4 ページ40
「邑……」
「わがままだよね。だって研究所に行けばお母さんもお父さんも、夏も助かるんだから」
「そうだよわがままだよ。……あたしは邑に死んでほしくない」
「ありがとう。でもビーさん、他の生存者をたくさん助けてあげて」
私はそっとビーさんの両手を肩から下した。
「私はビーさんにたくさん助けられた。勿論兄貴さんにも、アンにも、ドゥにも、トロワにも……」
「ここに残ったら、本当にいつ死ぬか分からないよ?政府は発症者を確実に殺す薬を作り出してるんだから……。法律もまだ出来てないんだから……」
項垂れるビーさん。
「分かってる」
「……あんたの父さんと母さんと、夏ちゃんに聞いてみなよ。もし3人が基地に行きたいって言ったら、連れてくからね」
「うん……分かった」
私は生まれて初めて「この家で暮らしたい」と思ったかもしれない。ずっと『逃げたい』『死にたい』『死にたくない』、その3つの感情の繰り返しだった。だからなのか、私の思いに寮父も母も夏も賛成してくれた。
ビーさんは呆れた顔をしていたが、しぶしぶ納得してくれた。
「生存者を探しにまた帰ってくるし、その辺でうろうろしてる人たちも治療するために薬を持って帰ってくるよ。それまで生きていてね」
「分かった。ビーさん……ごめんね」
「謝らないで。というか謝るなら一緒に来てよ」
「それは……」
「はは、冗談。街を『新人』で埋め尽くして、政府の奴らとっちめるから待ってな」
ビーさんとハグをしながら、私は彼女とはもう会えない気もしていた。
私はずっと自分勝手で、他人の事なんて考えていない。だけど間違えるなら最後まで間違って、それでも私は『私の幸せ』を実現するために頑張ったんだって、いつか誇れたらそれでいいかなって、そう思った。
◆ ◆
それから。
私たちは何事もなく――本当に平和に暮らしていた。
喧嘩もない。
お互いがお互いを尊重して。自分が出来ることをした。
私たちがそれぞれ心の底で本当に望んでいた生活を――やっと手に入れたのだ。
母と夏に至っては一度遺伝子が異常を起こしたのだから治療されなければ確実に死んでいたし、下の妹たちも死の恐怖を味わったからか、そんな街の中走り回った私を尊敬の目で見るようになった。寮父も私を尊重してくれるようになり、私は人権を初めて手に入れた。
私一人の力で勝ち得たものではないけれど、悪くない心地だった。
そして、あっという間に1週間が経った。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時