第5章-2 ページ38
「これなら……お前たちを守れるかもしれないと思ったんだ」
「……」
「今まで本当に悪かった。この通りだ」
寮父は再度頭を地面にこすりつけた。
「だから」
涙ぐんだ声で寮父は続ける。
「やり直させてほしいんだ」
「……遅いよ。だってもう夏が……お母さんも……」
「分かってる……。赤い煙が立ってるもんな……」
「なのに、いったい何から私たちを守ってくれるっていうの？もう手遅れだよ」
もう戻れない――と言いかけて、以前の世界を思い出す。
私を無視するか暴力を振るうかしかしない寮父、言葉の暴力を振るう寮母、我関せずな妹たち。
あの世界にも、もう戻りたくない。
それなら私は壊れてしまったこの世界で――。
「邑……？」
黙り込んだ私の背中からビーさんの声が聞こえて、私ははっと我に返った。寮父はまだ
「もっと早くその言葉を聞きたかったよ。何で今なの？ねえ、もっと早くどうにかできなかったの？」
「…………」
「私たちは『家族』なんて言えない……」
「……許してくれ……」
互いに項垂れる私と寮父。「邑」と後ろからビーさんの声が聞こえた。
「邑、あたし、まだいくつか治療薬を持ってる」
「！」
「誰か発症してるかもしれないと思って、取っといたんだ」
「本当！？」
「うん。――でも、そうすれば皆政府の奴らに狙われることになる」
――リスク。
そういえばそんな話もしていた気がする。
でもなんだっていい。今しかチャンスはないかもしれない。
寮父の気が変わらないうちに。母の命を助けられるうちに。
「大丈夫」
私はビーさんの手を両手で握った。
「ビーさんお願い。その薬、私の――『家族』に、打ってください……！」
私は結局、どんなことをされても何を言われてもあの人たちを家族と思っているらしい。『家族とは言えない』なんて言いつつ、その呪縛からはどうしようもなく逃れられないらしい。私はきっと、助けられると思ったら助けてしまうんだ。多分私はこれから酷い目に遭ったとしても、嫌だの何だのと毒づきながら、それでも『家族だから』って、血のつながりも何もないあの人たちを守ってしまうんだ。
「……任せて」
神妙な顔をして、ビーさんは頷いた。
◆ ◆
ビーさんと寮父が玄関から家に入っていくのを私は玄関前で見ていた。意外にもすぐに戻ってきた２人は、安堵の表情を浮かべていた。
「終わったよ」
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作者名：めいろ | 作成日時：2019年12月16日 22時
