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第4章-2 ページ32

「あたしたちはこれを使わなくても見えるけど。それだと一般人が大変だから、開発してもらったの」
「こんなものを作れる人が……?」
「基地にいるよ。あたしたちの身体を観察して、時には解剖して、世界のために使えるものは全部使ってもらう。それで皆が暮らしやすい世界をつくるのが『moi』の望みなんだ。これはその研究成果のほんの一部。つけてみて」
「……」
「大丈夫、爆発したりしないって」
「……わかった」
「手は洗ってね」

 私はビーさんからコンタクトレンズを受け取った。
 コンタクトは部活の時だけつけるようにしていたから、慣れていた。
 鏡がなくてもつけられる。

「……わお」

 人間の(未感染――いや、未発症者の?)視界とは、全く違った世界がそこにあった。


 見とれてしまいそうな、綺麗な『煙』が見えた。


「ビーさん……」
「これが新人に見えている世界だよ」

 ビーさんから透き通った青い煙が立ち上っている。

「新人は青いオーラをまとってるんだ」

 私は自分の身体を見下ろす。
 煙――オーラの色が知りたかったけど、自分の色は見えないらしい。
 両腕を振っても何の煙も出てこない。

「何してんの?」
「……何でもない」

 ビーさんの視線から逃げるように、私は扉を開けて店内に戻る。
 兄貴さんからは青い煙が立ち上っていて、レジの向こうでは黄色い煙が揺らいでいた。

「……ビーさん、あれ」

 指をさすと、ビーさんは真剣な顔で頷いた。

「そう、レジの向こうに生存者がいる。――遺伝子を持ってないかまだ発症してない場合は黄色。覚えといて。死ぬとオーラはなくなるから、まだ生きてる。息をひそめてじっとしてるのかもね。あんまり意味ないけどね」
「……」
「今回暴れてる人たちもこれが見えてるはずだけど、 Dr.イセ曰く、『多分このオーラが何を意味するか彼らは理解していない。青は絶対に襲わないあたり、見えていないのか、安心感を得てるのかのどっちかだろう』ってさ。黄色や黒のオーラが動いてるのを見ると嫌悪感を示して襲ってくるみたい」
「うーん……?」
「人間だって、ゴキブリがいたら死に物狂いで始末しに行くけど、死んだゴキブリなら見向きもしないでしょう?周りに生きてるのいるかなーって警戒するくらいで」
「な……なるほど」

 なんだその例えは。でも分かりやすい、と私は頷く。
 隠れながら逃げ続け、その場に留まらなかった私の行動は正しかったらしい。

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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

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