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第3章-7 ページ29

「証明は出来ない。ないことを証明するのって難しくない?でも今まで、その遺伝子を持つ人たちが自我をなくしたことは一回もない。今回の暴動が特別なの」
「『暴動』……」

 何度も彼女が口にするその言葉。

(もっと遠い世界で起こるものだと思っていた)
(いや……今でもそう思ってる)

 何かがおかしいのは分かっている。世界の何かがおかしいけど、きっと元通りになる――そう思ってしまう。願っている。暴動を警察が抑えてしまえば一件落着じゃない?とか、まるで他人事。いつまで経っても他人事。
 自分は関係ない世界の出来事。
 私は逃げ切ってしまえばそれでいい――と。
 私はああいう風にはならないだろう、なんて、不安を隠して見栄を張っている。

「どこかの国かどこかの反政府勢力が、そのウイルスを無理やり人とか犬とかに埋め込んだんじゃないかって、うちの博士――Dr.イセって言うんだけど、その人が言ってた。『いきなりそんなことしたら拒否反応出るに決まってるのにね。まあそれが狙いだったかもしれないけどね』って」
「へえ……」
「あ!思い出した!」

 ビーさんが突然声を張り上げたので、私はびっくりして肩を震わせた。

「ど、どうしたの……?」
「その遺伝子を持つ人は『新人(ノイリン)』って言うんだわ!だから邑、あんたも、『奴ら』とか軽蔑しないで、『新人』とか『その人たち』とか、ロシア人やアメリカ人や犬や猫と変わらず呼ぶようにした方がいい」
「わかった……。ビーさんはいつから新人なの?」
「……何年も前」

 それきり、何も話さなくなったビーさん。
 私は走ることに専念することにした。

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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

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