第3章-5 ページ27
一人で悶々としている私なんかちっとも気にせず、ビーさんと兄貴さんは史恵菜とお別れのハグをしていた。
そしてビーさんは私の手を握り、自由になっている右手を挙げてひらひらと振って、仲間を見渡してにかっと笑った。
「基地で会おう!」
言葉は――それだけ。
「Ready……Go!」
トロワさんの掛け声で、一斉に走り出す。
先頭にトロワさん、その次にビーさんと私。その後ろに兄貴さん、そしてアンさんと史恵菜、と続く。その後ろはよく見えなかった。
転んでいる奴らを飛び越えたり、奴らと奴らの間をすり抜けたりして避けながら走る。
「彼らは同類同士で争ったりしない。そういうゾンビ映画の常識は知ってるしょ?」
走りながらビーさんが言う。私の手を掴んだまま。
「うん」
私も走りながら答えた。ビーさんの脚が速くて、ついていくので精一杯だ。
「見たことあるよ。……それが?」
「前方3名!」
トロワさんが叫んだ。
「あたしの後ろに隠れるようにして走りな!」
私の質問には答えず、ビーさんが叫んだ。
「あたしの手を離すんじゃないよ。置いてくからね!」
「は、はい!」
3人のゾンビを難なく避けてほっとしたのもつかの間。
バウバウ!と吠えながら、犬が走ってきていた。
口から垂れているよだれもそのまま。
――明らかに、感染している。
「兄貴!出番!」
「ほい!」
ビーさんに呼ばれ、兄貴さんが飛び出した。
犬に向かって全力疾走、両手を振りかぶって殴りかかる――のではなく。
「おーらよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」
と両手で犬の顔を包み込み、髪を洗うように搔きまわす。
全力でかわいがっていた。
「……!?」
「ええ子やな〜〜」
という兄貴さんの大きな声が廊下に響く。走ってるからもう影も見えないけど、多分ずっと撫でくりまわしている。
「ビ、ビーさん、い、今……」
「よそ見すんな!前見て走れ!」
「は、はい!……ねえ!」
「何?」
「なんでビーさんたちは襲われないの?」
その質問に、ビーさんはちょっと黙り込んで。
前を向いたまま、でも力強く言った。
「あたしらは、『発症者』だから。だから襲われない」
「え!ゾンビ!?」
離しかけた手をぎゅっと握られる。
「聞いて!『発症者』には2通りあるの!」
とビーさんは叫んだ。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時