第3章-3 ページ25
わかった、と返事をしてポケットからスマートフォンを取り出し、アプリにメモしていた電話番号を入力した。
かける。
誰も出ない。
「…………出ない」
「そういうことだよ」
「……!」
まさか。だって。ウリさんは常駐してるって。
私はバッティングセンターの更に奥に通じる廊下を走った。
後ろでビーさんが「ちょっと!」と言っているが構わない。この先に医療センターがくっついているんだから、そこにいるはず――。
「え」
誰もいなかった。
受付も、その先にある診療室にも、どこにも誰もいない。
「なんで……」
「あまり動き回らないでね。襲われちゃうかもよ?」
と、後ろから声。びくりと肩を震わせて振り向くと、いつの間にかドゥさんが立っていた。青い眼鏡に、猫っぽいけど優しそうな瞳。八重歯のせいか童顔のせいか、3人の中でもかなり若い方に見えた。
「ここはもう機能してない。戻ろう?」
「……」
こくりと頷いて、私はドゥさんのあとに続く。廊下を無言で歩き、ビーさんたちがいたところまで戻った。アンさんは離れた場所で生き残れた少女たちを誘導していた。私を見て、ビーさんが「ね?」と目を意地悪そうに細める。
「治せばどうにかなるだろうけど、どこにいるか分かんないし」
「そんな……」
「勇者の森にいたかもしんないなぁ。もしそうなら、誰も生き残ってないけど」
へなへな、としゃがみ込む私。
「どうしたの」
慌てたようにビーさんが肩を支えてくれた。史恵菜も私の隣にしゃがみ込む。
「大丈夫だよ、発症したならあたしたちが治せる」
「違う……違うんです」
ふるふると首を振った。
「母が全身にやけどを負って……。応急処置はしたけど、ゾンビになる前に助けてもらいたくて……。でも119番は繋がらないし、救急隊員はいないし……。妹も待ってるのに……」
「えっ寮母さん全身やけど!?なんで……?」
「……」
史恵菜が驚いた声を出したけど、私は答えられなかった。
「……仲のいい家族だね」
とビーさん。私は「そんなんじゃない」と首を振った。
「でも、どんな母親でも、やっぱり生きていてほしいって思っちゃう……」
「……それは全世界の子供の願いっしょ。当然だよ」
ぽん、とビーさんは私の頭に手を乗せた。
視界が涙でにじむ。
「ビー!もう行かんと!」
トロワさんが向こうで叫んでいる。
「分かってる!」
とビーさんも叫び返す。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時