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第2章-10 ページ20

だからこそ私は逃げ込めて、物陰に隠れていなくても見つからず、こうして女の子たちと話が出来ている。
 だけど、今は?
 最奥まで『奴ら』が迫ってきているのでは?
 それはどうして?

 招いたのは――誰?

(いつもそうだ)
(多分私が良くないんだ)
(……私だってつらい思いでここまで来てるのに)

「邑?」

 黙り込んだ私を、不審そうに見下ろす史恵菜。私は「何でもない」と頭を振り、不審者がスポセンに入り込んだと聞いたから、静かに、とだけ伝えた。
 表情を固くして小刻みに頷く少女たち。
 その少女たちの頭の向こう、廊下の奥のほうに私はふらふら動く影を見つける。

 ついに、奴らが近づいてきていた。

 でもまだ私たちには気づいていない。
 静かにしていれば、きっと逃げ切れる。

「逃げて」

 小声で、自分でもびっくりするほど冷たい声を放った。
 びくりと体を震わせ、頷き、裏口に走っていく少女たち。
 そこまではよかった。
 誰かが後ろを振り返ってしまった。

「キャアアアアアアア」

 バッティングセンター中に響く叫び声。
 それに気付いた奴らが、咆哮をあげて走り出す。

「馬鹿……ッ!」

 私も奴らに背を向け、裏口に向かって走った。
 スピードは遅い。奴らも少女も。
 私は少女たちを追い抜いて裏口の鍵を開け、扉を押す。
 ――が、少し動いただけで、開かない。

「なんで……」

(鍵はかかってないのに何で?)
(何か……引っかかってる?)

「邑、はやく!」

 史恵菜が私の後ろで喚く。

 幸せを掴んだ史恵菜が。
 私の知らない環境で、体操も習わせてもらって、幸せに生きている史恵菜が。

 私だけがいつも恵まれない。

 胸がちりっと焦げる。が、ぐっとこらえて「分かってる!」と返した。私だって生き残りたいのは同じ。そんなことで手が止まってしまえば、私も巻き込まれてきっと死ぬ。
 何度も何度も、体当たりを繰り返す。扉は少しずつ、本当に少しずつ開いていく。
 このまま数十回体当たりを繰り返せば開くかもしれない。
 けれどそんなに時間もチャンスも与えられていない。
 振り返れば、裏口から離れ、表玄関に回ろうとバッティングセンター内を走り回る少女たちがいた。
 でも子供の足より、奴らの方が足が速い。
 追い付かれ――そして襲われていく。
 食べられてるって感じはしなかった。
 人間にはそんな力があったのかって驚くぐらい。殴る蹴るなんてもんじゃない。

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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

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