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第2章-6 ページ16

◆ ◆

ウリさんに貰った金属バットを手に、私はスポセン――スポーツセンターに向かった。
 私の住む市には、『森林公園』という、3つの市にまたがるとても大きな公園――いや、『森』がある。
 元々は小さないくつかの公園だったらしいけど、公園と公園の間にある森がいつになっても開拓・開発されないのでまるで一つの大きな公園のように見え、いつしかまとめて『森林公園』と呼ばれるようになった……らしい。
 普通の公園には絶対にないだろう大規模な遊具の他、図書館や公民館、スポセンもといスポーツセンター、プール、陸上競技場、テニスコートなど、保健体育に関する施設は全てここに集められている。私の高校も体育祭はここでやったし、この辺り3つの市の中高生でここを知らない人はいない。
 スポセンには手前に体育館、その奥は中央に大きなバッティングセンターがあり、それをぐるっと囲うように筋トレ室、用具室などの設備がある。
 さらに奥には医療センターがあり、救急隊員や整形外科、内科、小児科、耳鼻科などの先生が常駐している。
 この公園はいざというときの避難場所になっているから人が多いかと思ったけど、そうでもなかった。
 まだこの付近に避難警報が出てなかったからだろうか。

(私もスイッターを見てなかったら、今都会がどんな悲惨な状況なのか知らなかったし……)
(あー、今初めて『田舎で良かった』って思った)

 金属バットを肩に、走り続ける。
 ざわざわざわ――と。
 たったったった――と。
 木々が風でなびく音と、自分の走る足音だけが聞こえる。

(静かすぎて不気味)
(何か出そう)

 目だけできょろきょろ周りを見渡しながら、『勇者の森』と呼ばれるアスレチックゾーンを通りかかったところで。

 いた。
 うじゃういじゃいた。
 多分、50人以上。

「……っ!」

  思わず足を止めてしまった。
 必死に両手で口を押さえる。

(見つからないように、静かに通り過ぎなきゃ)
(静かに、静かに歩くんだ、私よ)

 勇者の森では何かのイベントがあったのか、市の名前が書かれた白いテントが張られていて、ヨーヨーや折り紙が地面に散らばっていた。
 ヨーヨーを踏んづけて転んだ子供の顔がちょうど私の方を向き――目が合ってしまった。

「…………」

(動くな)
(動けば気づかれる)
(私は木)
(私は空気)
(その辺のものと変わりません)
(頼むから気づかないで)
(頼むからあっち見て)

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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

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