第2章-2 ページ12
信号をいくつか渡り終えて、さすがに疲れてきた頃。
ちょっと隠れて休憩しようと周りを見回すと、廃れた官舎が目に入った。私が小学生だったときには結構栄えていた官舎だけど、今はほとんど空き部屋だ。自衛隊の官舎だけど、みんな自分の家を建てたりもっと都会に住んだりしているらしい。
(あそこなら奴らはあまりいないだろう)
少しでいいから、休憩したい。
そう思って私は官舎に走った。
でもそれも甘い考えだった、とすぐに思い知らされる。人が少なくほとんど空き部屋、とはいえ、少数ながらやっぱり人は住んでいるのだから。
1階の手前側の部屋の窓が、割れていた。
ベランダから奴らが入りこんだようで、女の人の叫び声も聞こえてきた。
(ああもう、叫んだら奴らが寄ってくるのに!)
(ゾンビ映画の鉄則でしょ!)
(ここももう駄目だ。早く他の場所に行かなくちゃ。……でも、さすがにちょっとだけ休憩したい……)
人が少なそうな官舎なら大丈夫かな、と私は奴らから逃げるように、日陰になっている官舎の共同玄関を開けた。
特に叫び声も聞こえないし、ちょっとなら大丈夫だろう。……多分。
各階に部屋は2つだけ。階段を数段登ると一階の居室の扉が向かい合って鎮座している。階段に膝を伸ばして座り、束の間の休息をとる。
と、白と黒のペンキのようなもので顔を塗ったくられた幼女が階段を降りてきて、びっくりして飛び跳ねてしまった。
(奴らは階段の上り下りもできるの?)
そんな描写、今までのゾンビ映画でも見たことがない。でもこれは映画じゃない。ただの現実なんだから、私が知らなくてもおかしくはない。
出口にじりじり後ずさりつつ、幼女がこちらに襲い掛かってこないか注意深く観察する。小学生……ではないだろう。多分幼稚園。4〜5歳くらいに見えた。
でも幼女を見れば見るほど、襲われた跡はない。
家具や周りのものと同調していれば見つからないと考えたご両親とかに、塗ってもらった……とか……?じゃあご両親はどこに?まだ上の階?一緒じゃないってことは……。
少女は怯えたように――でも「来るなら来い」と言わんばかりの強気な視線をこちらに送ってくる。
私も何も言わず、幼女と見つめ合う。
やっぱりこの官舎ももう全部危険なんだ。すぐにでも出ないといけない。
(ついてこい、と言われるのを待っているのか、ついていって大丈夫なのか考えているのか……)
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時