【男主】疲れるくらい愛されてます。 (ページ10)

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佐野side

佐野「コーヒーでいいですか？ブラックですよね」

『あ、ありがとう！覚えてくれてるん嬉しいわ』

Aくんは普段は可愛らしいのに、味の好みは見た目に反して大人っぽい。

甘いのも好きやけど、朝は絶対ブラックやねん。

さっきまでのふわふわした喋り方は、案外すんなりとどこかへ消えてしまった。
その事実に若干の寂しさを覚えながらコーヒーを目の前に差し出す。

ブラックコーヒーを目の前にして、おっきいいちごパフェでも差し出されたんかっていう表情を浮かべるこの人を見て、あー好きやなあってちょっと苦しくなった。

いつも先輩メンバーに取られてばっかだから、俺に勝ち目がほとんど無いことは分かりたくなくても分かってしまう。

せやけど、今日だけは、俺のAくんになってくれへんかな。

『あのさ、恋愛ソングを作ってほしいって言われたやんか。俺、どういうテーマで歌詞を作ろうか迷ったんやけど、とりあえずワンフレーズ書いてみてん』

コーヒーをひとくち飲んだあと、Aくんはノートをかばんから取り出しながらそう言った。

『恋愛っていっても色んな形があるけど、“恋が実る可能性が低い片想いだけど、それでも今日だけは俺のものでいてくれへんかなあ”っていうような、ちょっと切ない気持ちを歌いたいなって思って』

どうやろ？と差し出されたページに書かれてたのは、俺の今の感情とめちゃめちゃリンクしてて。

なんか、今は俺の方がスラスラと歌詞書けそうやわ。

佐野「めっちゃいいっすけど…この歌詞、誰を想ったらこんな風に書けるんすか」

『そんなん、簡単に言ったらつまらんやん』

この人は、どうやら俺を困らせるのが得意らしい。

良い事か悪い事かはさておき、その歌詞にぴったりそうなメロディーがなんとなく頭の中で流れて、それが余計に悔しい。

佐野「ずるいっすわ、なんて返せばいいんすか」

『ごめんて！まあ、今日1日よろしくな！』

1日とは言わず、ずっとこの空間におってほしいねんけど。
そんな事を言える日が、生きてるうちにやってくるんだろうか。

来世では、あなたと、違う形で出会いたいです。

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