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堪らなくなって、あの夜2人で走った道を太陽の下走り抜ける。


電車の乗客から見える俺は滑稽だろうか？
遠く後ろの方から聞こえる遮断機の音は途切れ途切れで、まるであの日の電話みたいだ。


カン、カン、カン、カン────
赤く点滅する危険信号、
その向こうに唯一聴こえる『サヨナラ』。


俺が好きなのはいのちゃんで、
でもいのちゃんが好きなのは別の人で。

そんなこと始まりからわかっていたのに、見ない振りをしておとぎ話の夜に飛び込んだのは
俺といのちゃんの、ふたり。


いのちゃんは確かに俺のことは俺のことで好きでいてくれた、というのは自惚れなんかじゃないと思う。


照れたように笑う顔も
2人でふざけて笑った顔も
愛おしそうに頬を撫でるあの指も
いのちゃんからくれたキスも。

迷い込んだ世界はおとぎ話でも、一緒に過ごしたあの姿はまやかしなんかじゃない。


ただ、俺にとってはハッピーエンドにならなかった、それだけの話だ。



｢はぁっ、はぁっ、は……｣


どれくらい走ったか、線路は遥か高架の上へと行ってしまったけれど、ただ頭を真っ白にしたくて走り続けた。


｢………すご｣


ザァ、と強い風が吹いて分かれた雲の間から、嘘みたいに澄んだ空が覗く。

雲の淵は空に混ざって、まるで水の中に白い絵の具が溶けたみたいな不思議な空だった。



鞄の中にいつも入れている小さなミラーレスを取り出して思わずファインダーを覗くと、夢中でシャッターを切った。


これは物語の終わりじゃない。
ここから、今始めるんだ。


待っててよ、いのちゃん。
今度こそ、心から俺に夢中にさせてみせるから。


空の青さは海にだって負けない。





《Shee.》

ラストシーン/ASIAN KUNG-FU GENERATION

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