愛を知らない夏 ［Taiga］

デート ページ19

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仕事帰り、
【今日早く終わったから迎えに行くね】
【外でご飯食べよ】
と京本さんからのLINE通知。

あんまり絵文字は使わない人なのかな。


わくわく感に胸を昂らせて
エントランスを出ようとしたとき
「わっ！」と横から顔を覗かせた樹くん。


「Aさんも今日はもう終わりですか？」
「うん、樹くんも？」
「僕も終わりっす！帰り、途中まで一緒行きません？」


何気に、外でこんなふうに
樹くんの横を歩くのは久しぶり。



「ん？」
「いや…すっかり大人の男性になったなあと思って」

「ふふ、僕も大人なんで」
とセリフは堂々としてるのに、
照れながら言うせいで、かわいさが隠しきれていない。


「かわいいね」
「えーかっこいいの方がいい」
「うん、樹くんはかわいい」
「ねえってば！」



ふとスマホを取り出して画面を見ると、
【いつものとこにいるから見つけてね】と
京本さんからのLINE。


視線をめぐらすと、
壁にもたれかかってスマホをいじる彼の姿を見つけた。


ほら、みんなの視線ひとりじめしちゃってるから。

わたしみたいな普通のOLが隣に並ぶのは、
かなり気が引ける。


「じゃあ、わたしはここで」
「あっ、はい！じゃあ、おつかれさまでした」
「うん、樹くんまた明日ね」


樹くんを見送って、京本さんのところに駆け寄る。
「京本さん」
「…ん、あ、おつかれ」
「お疲れさまです」
「じゃあ行こっか」


少し涼しい風が混じる、
夏の夜の空気。

急ぐ人たちの中で、


「…あのさ、さっきの人って誰？」
「さっき……？…あ！樹くん！後輩です」
「"樹くん"ね…Aちゃん、面倒見良さそうだもんね」

さっきから普通に話してるのに、
どこかいつもの京本さんと違う気がして噛み合わない。


なんか、胸が苦しい。



でも、そりゃそうだ、
付き合う前の男女やカップルならまだしも
私たちは「セ フ レ」だから、そんな甘さは必要ない。

じゃあ、どうして？
わざわざふたりでごはん行ったり、
デートみたいなことしなくたっていいのに。



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