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人通りの少ない廊下に入ったとき、私は前を歩くデノンさんに声をかけた。
「…何で、どうして…庇ったんですか」
デノンさんはピタリと足を止める。
デノン「…勘違いするなよ。俺は今すぐにでもお前を殺してやりてぇよ。
…ただ、1日経って考えた。…フェンメルが死んだ時冷静に話すお前を見て、俺はお前の正体に気づいた。普通の奴はあんな風に冷静じゃいられねぇからな。
…だがお前は冷静だっただけで、なにも感じてねぇって顔じゃなかった事に、昨日気づいた」
デノンさんは溜め息をついて私を振り返る。
その顔は、優しさと、悲しさと、虚しさと…一言では言えない、複雑な表情だった。
デノン「そもそも、殺しが好きでやってたんなら、エルヴィン団長も目をつけないだろうしお前も今頃兵団にいる奴をひとりふたり殺してるだろ。
…お前がそんなことをやってたのに、何か理由があったことくらい、考えればわかる…はずなんだがな。昨日はフェンメルが、…ずっと昔からの同期が死んだせいで、冷静じゃなかった」
「理由があったって、許されることじゃ…」
私は彼の父親を闇に葬った。それは揺るぐことのない事実だ。私がこの手でやったこと。恨まれるのも当然の報い。
デノン「お前がお前自身を許すか許さねぇか、そんなことは俺にはどうでもいいんだよ。俺自身が許すか許さないかだろ。
…お前のその身体の痣。お前の正体と何か関係があるんだろ」
私はハッとして、首元を隠した。
前もリヴァイさんに首元にある痣を見られて、勘づかれたのに、…油断していた。
デノン「…そんなん見たら、理由を聞かざるを得ないだろうが。被害者の俺にはせめて教えろよ、全て」
何で、父親を奪ったのは他でもない私なのに。
どうしてこんなに優しくしてくれるのだろうか。
「…はい」
堪えそうな涙を抑えて何とか返事をすると、デノンさんは「行くぞ」と言って再び歩き出す。
私もまた彼についていく間、疑問をひとつ口に出した。
「あの、…何で団長室なんですか」
デノン「…あの文書を作った奴の検討がついてる」
「…っ!」
デノン「さっき、食堂に入ろうとした時、入り口の影からこそこそ覗いてる奴を見た。
…入ればいいのにそうはせず、ただの覗きをして、さらに事を見て…笑っていやがった」
「それは、…誰なんですか」
デノンさんは顔を歪めて言う。
その声が、妙に廊下に響いた気がした。
デノン「コット…
コット・ルナソルだ」
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作者名:みみみみみ | 作成日時:2022年9月29日 19時