38 お見舞い。5 ページ38
…
「え、うそ……」
「だから大丈夫だ。ほら」
でも、とかだって、なんて言ってこれでもかというほど躊躇うAに真希はため息をついた。
「お前も私も、お互い触れようとしてる訳じゃない。
お前がそんな手じゃスプーン持てないだろ。
だから代わりに持つだけ。もし対象になるとしてもスプーンだから私たちに作用はしない」
そんな手? と自分の手を見てみるけれど、特に以上は見られない。
なんでという顔をしていたら「さっきから物掴めてないぞ」と言われた。そんなことある?
そういえばさっき水をコップで出してくれた (しかもストロー付きだった)のは、こういう事だったんだろうか。
試そうぜとスプーンで催促される。
「あの、真希ちゃん、絶対痛かったら無理しないでね、すぐ家入先生のところに行ってね」
「わかってるよ、ほら」
「絶対! 絶対だよ」
何度も念押しするように言うAに面倒くさそうに溜息をつく真希。
「わかったっての。ほーら、はーやーく」
お粥の乗ったスプーンをほれほれと上下に揺らして急かされる。
「い、頂きます……」
恐る恐る顔を近づける。
──ぱく
ぐっと体を強ばらせていたAだったが、しばらくしてもいつもの感触はやって来ない。
ゆっくり目を開けると、何ともなさそうにしている真希が目に入ってほっとする。
「だから言ったろ」
はあとまたため息混じりに言われて、あんなに怯えていた自分が恥ずかしくなる。
でも、Aがここまで怯えるのだって訳があるのだ。
──自分の意図に反して人を傷つける感覚。
(1度や2度じゃない。呪力を理解できる年になるまでに、私はいったいどれだけ沢山の人を傷つけたんだろう)
あのべっとりと広がる真紅も、
恐怖に覆われた瞳も、醜い化け物だと罵る口も、痛々しい涙も、叶うことならば、もう一生見たくないのだ。
そのために
この力で人を守れると断言して、優しく差し伸べてくれる手があったから。
勿論、そんなことを誰かに言うつもりは無い。
それでもふと考えてしまうのだ。この年で以前のようなことがあれば、きっと今度こそ私は独りで生きていくしかないのだろう。
そういう世界だ。そういう呪いだ。
この世界ではいつだって簡単に、本当に簡単に、生命の灯火は潰えてしまう。
だけど。それでも、縋ってしまうのだ。
「ありがと、真希ちゃん」
この世界でしか生きられない私は。
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みみず2(プロフ) - なおこちらのコメントは後日削除させていただきますので、必要であればお控えくださいますようお願いしますm(_ _)m (2022年4月26日 6時) (レス) id: c96996a763 (このIDを非表示/違反報告)
みさにゃん(プロフ) - 途中でも読みたいので教えてください❗ (2022年4月26日 0時) (レス) id: 261ab17a8b (このIDを非表示/違反報告)
みさにゃん(プロフ) - 大丈夫です。 (2022年4月26日 0時) (レス) id: 261ab17a8b (このIDを非表示/違反報告)
みみず2(プロフ) - みさにゃんさん» コメントありがとうございます。2作目の方が作品途中で更新停止してしまっていますがよろしいでしょうか? (2022年4月25日 2時) (レス) id: c96996a763 (このIDを非表示/違反報告)
みさにゃん(プロフ) - 素敵な作品ありがとうございます❗ パスワードを教えていただきたいです。 (2022年4月24日 18時) (レス) @page48 id: 261ab17a8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みみず2 | 作成日時:2021年2月23日 21時