【中堂系】甘く檸檬のようなキスをして２

・87 ページ43

.



一番奥まで進むと、所長が言っていたあのゴミ屋敷のご老人の奥さんの遺骨が眠っていた。


「奥さんの美代子さんです。路上で突然倒れて財布と小銭入れしか持っていなくて、身元が判明するまでに3ヶ月もかかってしまった」


私が遺骨を見上げていると、所長がそう話した。


遺骨を持って行った所長に、あのご老人はバチが当たったんだと言ったそうだ。

最期の日はゴミの分別で揉めて、奥さんは腹を立て家を出て、それっきり。その日を境にゴミ屋敷になってしまったと言う。




「ご遺体を帰すべき所へ帰してあげるのも、法医学の仕事です」


所長の言葉に私は深く頷きながら、棚に並べられた無数の遺骨の１つに、そっと手を重ねた。

そして静かに瞼を閉じ、数秒後にまた開くと
久部くんの目線を感じる。



「…Aさん？」私を心配するような、様子を伺うような視線に少し微笑みを作る。



「身元不明のご遺体を見る度に思うの。
私と一緒だって。どこに帰ればいいのって彷徨う私と一緒。

私にはもう無いけど、このご遺体達には待っている家族や家がある。それを早く見つけてあげたい…」


「9番のご遺体も、早く身元を調べて帰してあげたいです」


そう言う久部くんに、「そうだね」と沢山のご遺体が眠る保管室に私の声が響いた。



オフィスに戻り、9番の身元判明に繋がるものは無いかと探すが、それは結局定時間近になっても見つからない。


私はふと、ホワイトボードにある内視鏡手術の痕の写真を見つめた。

なんとなく気がかりで仕方なかった写真に
近づいて行く。


そんな私に三澄先生が「A？何かあった？」と声を掛ける。



「この痕、アメリカで見た物と同じ様な…」

私はそこまで言いかけて、「ああッ！！」と大声を上げ、ようやく思い出した。日本だからって油断してた…



全員で解剖室へ移動し、ご遺体の保管庫を開け
9番の脇腹を三澄先生と、中堂先生が覗き込む。



「確かに、完治して瘢痕化してるから区別がつきにくい。ここは日本だしな」

9番の脇腹の痕の正体…内視鏡手術の痕ではなく銃創だった。

そこから9番のご遺体は町田三郎という男性に結びついた。


デンタルデータとも一致し身元が判明したが
以前暴行と傷害で逮捕された前科者だった。




…そこまでは良かったものの。


「…おい、さっさと出せ」

翌朝、中堂先生と私は13年前の解剖結果の資料を借りに、日彰医大まで足を運んでいた。


.

・88→←・86

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す