【中堂系】甘く檸檬のようなキスをして２

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「問題の9番だけが残っちゃいましたね…」

久部くんがホワイトボードの前で呟く。



あれからご遺体の身元判明に、全員が慌ただしく動いた結果、9番以外の全員の身元が判明した。


ご遺体の情報を一覧にしたホワイトボードには、判明と赤い文字が連なっている。ただ1人、9番だけを空欄にして。




今のところ、分かっているのは男性で30代後半から40代前半。AB型で、脇腹に完治した内視鏡手術の跡があること。


しかし、各病院から上がってきたリストに、該当する人はおらず、歯の治療痕についてはまだ近隣の歯科医院しか回れていないと言う。




「アメリカのUDIなら、歯のデータベースがあるから一瞬で誰か分かるのに…」と私は肩をすくめた。


「実を言うと、UDIラボが当初の予定通り国立の研究所として全国展開していれば、アメリカと同じように、実現する筈でした

＿＿＿＿露と消えましたけど」


そう語る所長の背中は、どこか悲しげだった。



その日の夜、所長室では中堂先生が自分で持ち込んだキャンプ道具を使い、またラーメンを作ろうとしていたので、テーブルに１つの小さな箱をドンッと置いた。


先生は何だこれ？と言いたげな目線を送ってきたので「お弁当です」と説明する。



「弁当？」

「いつも同じものばかり食べていたら健康に悪いです。なので今日は野菜たっぷりのお弁当を用意しました」


「ラーメン以外も食ってる」

「おでんとかでしょ？食事のバランスの問題です」


箱を開けて、箸を渡すと先生はお弁当と私を交互に見てから、一口、また一口と運んでいく。



「どうですか、お味は」先生の顔を覗き込むように訊くと


「…美味い」と返ってきた。


先生のことだから、褒めないだろうと思っていただけあって、中々の好感触に"お！"と眉根を上げた。



「そういえば、所長は歯のデータベース化にこだわってましたね」


「東北の震災があったからだ」と先生は話す。




「現地のカルテは流されて、集められた歯科医師は遺体を触った経験もなく、人数も足りなかった。身元不明の遺体が沢山出た。


神倉さんは厚労省時代、災害担当で現地に行っていた。来る日も来る日も運ばれてくる遺体。いつまでも帰れない遺体を山程見たと言っていた」



翌日は所長に頼まれて、久部くんと身元不明のご遺体の遺骨を保管室に片付けていた。


荷台を押して先を歩く所長の背中を見て、中堂先生の昨日の話が、脳裏をよぎる。



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