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いつになく軽い足取りで、ラボのロビーまで降りると警備員に「お疲れ様でした」と声をかけられる。
いつもならこのまま挨拶を返し、ラボを出て行く所だが、今日はくるりと踵を返す。
「あの、すみません。数日前の夜頃の事なんですけど、このラボからご遺体を運んで行く人を見かけませんでしたか?」
そう遠慮気味に尋ねると、訊かれた警備員は顎に手を当て、しばらく考え込む。
「確か…陽名医大の解剖医が遺体を引き取りに来たかと思います。随分遅くにやって来るなと思ってたんです」
「陽名医大…」
やっぱり医療関係者だったか…
ラボでは同じような格好をした人が行き交う為
この空間に同化してしまっていた。
翌日の解剖室では、真っ黒な焼死体10名のご遺体でごった返していた。
所長の説明曰く、増子市区の雑居ビルで火災が発生し、火災報知器とスプリンクラーは作動せず、
狭い街区で消防車が入るのに手間取って全焼。隣の空き家も一部焼けたが、そこで火は食い止められた。
ご遺体は4階に9名2階に1名。
全身黒焦げのご遺体ばかりで、誰が誰だか分からない。
火元は2階のスナック。2階が火の海になったため、上の店の人達が下に降りられずに4階階まで逃げたところで焼け死んだと思われる。
ビルの窓ははめ殺しで、内階段しかなく
逃げ道が無かったらしい。
「2番。器官が煤の吸引でクソ真っ黒だ」
「血中のクソCoヘモグロビン濃度70パーセントです」
その焼死体の解剖に追われる中、中堂班には別のヒリヒリした空気が漂っていた。
10名のご遺体を解剖医2人でやるだけでも大仕事なのに、中堂班は私と先生だけ。もはや班と言っていいのかすら分からない。
そんな状況を見かねた所長が、あるヘルプを呼んだ。
それが、中堂先生を煽るように、クソをわざと連発する坂本さんである。
以前先生は、坂本さんにパワハラで訴えられそれ以来2人の間には、確執がある筈だ。
でもその割には、坂本さんの表情は晴れやかで
むしろ今の状況を、楽しんでいるようにも見える。
とにかく、朝からずっと不機嫌な先生がいつ怒りの糸が切れるかそれだけが心配で、私は心の中で坂本さんお願いだからクソはやめて、と願うばかりだった。
そんな心配を露知らず、歯法学の年配の先生が到着した。
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青龍 葵(プロフ) - 母親を殺した真犯人は誰なのか…今後の展開、中堂さんと恋人同士になった2人に甘い部分があるのか?とか思いながら更新が待ち遠しいです! (2018年3月20日 6時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - 青龍 葵さん» もう最終回ですね〜終わってしまうのが辛い!小説の方もこれから急展開を迎えますので2人の行く末を見守って頂けたらと思います (2018年3月16日 21時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - いよいよ今日でドラマ最終回!結末がどうなるのか気になりますが小説の最後(完結)も気になります。完結まで、まだまだ先かと思いますが無理のない更新で頑張って下さい! (2018年3月16日 17時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - まるさん» ご指摘ありがとうございます。知識の浅い素人の書く文章ですので、これからもそういった点が出てくると思いますが、少しでも楽しんで頂けるよう努力していきます (2018年3月15日 7時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
まる - いつも楽しませて頂いてます!差し出がましいことを申しますが、細菌とウイルスは別物です!気にしないで読むつもりだったのですがどうしても気になってしまいコメントしました (2018年3月15日 2時) (レス) id: 8a313f8dce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Soll(ソル) | 作者ホームページ:http://ulog.u.nosv.org/home
作成日時:2018年2月18日 19時