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先生と至近距離すぎて、恥ずかしさが募る。
そしてつい、目を逸らして俯いてしまう。
今更聞かなきゃ良かったと、後悔の念まで押し寄せたその時、「顔を上げろ」と先生から無理難題を投げかけられる。
「…無理です、今は」と、小さく首を振る。
「いいから早くしろ」「嫌です」と押し問答を繰り返す内に先生は次第に、怒りの色を出し始めた。
そして一歩も譲らない私に、最終手段とでも言うようにある手段を計る。
「…さっさとしろ、A」
唐突に名前で呼ばれ、驚きやら恥ずかしさやら嬉しさが混合し、ハッと顔を上げてしまったが最後。
先生はしたり顔で、このタイミングを逃すまいとし、すかさず私の後頭部を自分の方へ引き寄せる。
その刹那、そっと唇が重なり合う。
触れるだけの簡単なキスなのに、この前とは違う優しさと甘さを感じる。
その感触に酔いしれるように、静かに瞼を閉じた。
先生の少し濡れた髪がくすぐったい。
でも何故かそれすら心地良いと思えてしまう。
私の後頭部を支える手がうなじ、首筋へとゆっくりなぞるように移動し、それと同時に唇が離れる。
目を開けば、先生の熱っぽい目線と絡まり
自分の顔が火照っていくのが分かる。
「…こういう意味だ。あの時、俺はお前の気持ちに応えたつもりだった」
しばらくぼんやりしていた頭も、次第に元の動きを取り戻し、私は言葉を探す。
「じゃあ、私、先生と付き合ってる…って認識でいいんですか」
私の問いかけに、何も言わない代わりに先生は頷いた。その様子に小さく息を吐く。
「…口で言ってもらわないと分からないです」
不器用で言葉足らずな先生に、ちょっとした意地悪を仕掛けてみる。
毎回私ばかりドキッとさせられているんだから
これくらいはいいだろう。
「私はちゃんと好きだって言いました。でも先生からは一回も聞いてません」
「バカか、今ので分かるだろ」
呆れたようにため息を吐く先生に、期待を込めた目線を送る。
その目線に先生は舌打ちし、目を泳がせながら
屈めた長身を元の体勢に戻し、腰に手を当てる。
「…す、…す……」
いつもより多く瞬きをする先生が
少し可愛くて、口角が自然と上がる。
ニヤつく私に先生は眉間にしわを寄せ
「あ゛ー…クソがッ!」と吐き捨てるように
言うと、その姿を所長室へ隠した。
そして私は先生の耳が赤く染まっていたのを
見逃さなかった。
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青龍 葵(プロフ) - 母親を殺した真犯人は誰なのか…今後の展開、中堂さんと恋人同士になった2人に甘い部分があるのか?とか思いながら更新が待ち遠しいです! (2018年3月20日 6時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - 青龍 葵さん» もう最終回ですね〜終わってしまうのが辛い!小説の方もこれから急展開を迎えますので2人の行く末を見守って頂けたらと思います (2018年3月16日 21時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - いよいよ今日でドラマ最終回!結末がどうなるのか気になりますが小説の最後(完結)も気になります。完結まで、まだまだ先かと思いますが無理のない更新で頑張って下さい! (2018年3月16日 17時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - まるさん» ご指摘ありがとうございます。知識の浅い素人の書く文章ですので、これからもそういった点が出てくると思いますが、少しでも楽しんで頂けるよう努力していきます (2018年3月15日 7時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
まる - いつも楽しませて頂いてます!差し出がましいことを申しますが、細菌とウイルスは別物です!気にしないで読むつもりだったのですがどうしても気になってしまいコメントしました (2018年3月15日 2時) (レス) id: 8a313f8dce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Soll(ソル) | 作者ホームページ:http://ulog.u.nosv.org/home
作成日時:2018年2月18日 19時