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ラボからの帰り道、先程まで降り続いた雨は止み、夜空には雲がかかっていた。
駅まで向かう道沿いにはバーやレストランなどが軒を連ね、一杯呑んで帰りたい衝動に駆られた。
今日は特に疲れているからかもしれない。
その中の一つに、雰囲気も落ち着いた静かなバーがあり、足を踏み入れた。
シックな黒で統一された店内に、一際目立つのはカウンターにあるクラゲの水槽。
その綺麗さに吸い寄せられるように、カウンター席に座れば、お酒を一杯注文する。
しばらくすると、「お待たせしました」と店員が静かにグラスを置く。
私は封筒に入っていた写真を眺めながら、お酒を喉へ流し込む。
「…儚げな表情でバーの片隅で酒を呑む…お嬢さん絵になるね」
突然横からサングラスをかけた男に声をかけられ、思わず身構える。
「えっ…と…どちら様で?」
グラスをテーブルに置きながら、尋ねると男はおもむろに名刺を渡してきた。
「フリーライターをやってる、宍戸理一です」
テーブルに滑らせた名刺を眺めていると、
「週間ジャーナルの末次から、貴方の事を聞いて、貴方に興味がありまして」
末次さんの知り合いか…と嫌悪感を露わにすれば、現金をテーブルに置き、席を立つ。
「あなたに話す事は何もありません」
「AA。16歳の頃に母親を殺され、父親は国外へ逃亡。独り身となった16歳の少女は親族に見放され、養護施設へ入れられた。
高校を卒業したら、養護施設の退所を余儀なくされ、アメリカの大学に渡った。
その後、13年前の事件を追いながら検査技師として働いている。泣ける話だな」
自分の人生の全てが調べられていて
思わず足を止め、振り返った。
「そしてその嬢ちゃんは、事件の手がかりを求め日本に帰ってきた。今まで誰にも心を開かなかった嬢ちゃんは、UDIの解剖医に初めて恋をしている」
「一体何なんですか…」
嫌悪感を通り越して、恐怖さえ感じる
サングラス越しのその眼が、私を引き離そうとしない。
「俺はさ、」と一歩、また一歩とゆっくりこちらに近づくと私の顎をクイっと持ち上げる。
「アンタの事件じゃなく、アンタに興味があんだよ。中堂系と恋愛ごっこしてるAちゃんにさ」
この男、もしかして中堂先生の8年前の事まで知ってる…?
私は男の胸元を強く突き返して、店を飛び出した。あの男が追ってくる前に、電車に乗らなくてはと、駅を目指し走る。
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青龍 葵(プロフ) - 母親を殺した真犯人は誰なのか…今後の展開、中堂さんと恋人同士になった2人に甘い部分があるのか?とか思いながら更新が待ち遠しいです! (2018年3月20日 6時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - 青龍 葵さん» もう最終回ですね〜終わってしまうのが辛い!小説の方もこれから急展開を迎えますので2人の行く末を見守って頂けたらと思います (2018年3月16日 21時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - いよいよ今日でドラマ最終回!結末がどうなるのか気になりますが小説の最後(完結)も気になります。完結まで、まだまだ先かと思いますが無理のない更新で頑張って下さい! (2018年3月16日 17時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - まるさん» ご指摘ありがとうございます。知識の浅い素人の書く文章ですので、これからもそういった点が出てくると思いますが、少しでも楽しんで頂けるよう努力していきます (2018年3月15日 7時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
まる - いつも楽しませて頂いてます!差し出がましいことを申しますが、細菌とウイルスは別物です!気にしないで読むつもりだったのですがどうしても気になってしまいコメントしました (2018年3月15日 2時) (レス) id: 8a313f8dce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Soll(ソル) | 作者ホームページ:http://ulog.u.nosv.org/home
作成日時:2018年2月18日 19時