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火葬が終了した時、ようやく外は冷たい雨が降っている事に気づいた。
その中を走ってきた私も、当然全身ずぶ濡れだった。
濡れて細くまとまった髪から、ポタポタと雫が垂れる。それが鬱陶しいくらいに、顔まわりに張り付いて剥がれない。
人形のように動かない私に、職員の方が外へと促し、おぼつかない足取りで火葬場の外へ出た。
するとさらに凍えるような雨に打たれるが、
そんな事はどうでも良くて。
まるで、雨が私の代わりに泣いてくれているようだった。
その時、背後から私の肩にカーキのジャケットが掛かる。振り返えらなくても、それは誰なのか容易に判断出来た。
「中…堂…せんせ…」
か細い声で、絞り出すように彼の名前を呼ぶ。
「遅かった…全て。私が父を信じてあげられなくて、その所為で、父は死んだ」
今にも崩れ落ちてしまいそうな私を、先生は抱きしめる。先生の大きく長い指が、私の肩を包み込む。
その触れられた箇所から、じわじわと温かさが滲んでいく。
「私が、父を死なせた……」
「…違う。お前が法医学者になっていなかったら、父親の死の真相は闇に葬られたかもしれない。父親の死が、お前に未来を託した。
その死を未来に繋げるのが、お前や俺達に出来る事じゃないのか?」
先生が、私の肩を回してお互いに向き合う形になった。そしてもう一度、先生の腕の中に閉じ込められる。
「自分を信じてくれなかった娘に、父はそんな期待してますか…?」
雨に濡れた目で、先生をそっと見上げる。
「死んだ奴は答えてくれない。この先も。
死んだらもう自分が無実だと、声を出すことすら出来ない。周りの奴らは、犯人だと思い込んだままだ。お前はそれでいいのか?」
先生の諭すような問いかけに、小さく首を横に振る。
「だったら、お前は父親の代わりに声を上げろ。父親の死を無駄にせず、生きろ」
"生きろ"という単純な言葉が、今の私の心には
深く重くのしかかる。
私は静かに瞳を閉じ、先生の胸に顔を埋めた。
そして、縋るように先生の背中に手を回す。
抱きしめ返したのは、今日が初めてかもしれない。
「先生、もう少しこのままでもいいですか…」
私が尋ねると、先生は何も言わずに強く私を抱き寄せた。
雨が地面に打ちつける音だけが
私達を包んでいた。
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青龍 葵(プロフ) - 母親を殺した真犯人は誰なのか…今後の展開、中堂さんと恋人同士になった2人に甘い部分があるのか?とか思いながら更新が待ち遠しいです! (2018年3月20日 6時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - 青龍 葵さん» もう最終回ですね〜終わってしまうのが辛い!小説の方もこれから急展開を迎えますので2人の行く末を見守って頂けたらと思います (2018年3月16日 21時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - いよいよ今日でドラマ最終回!結末がどうなるのか気になりますが小説の最後(完結)も気になります。完結まで、まだまだ先かと思いますが無理のない更新で頑張って下さい! (2018年3月16日 17時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - まるさん» ご指摘ありがとうございます。知識の浅い素人の書く文章ですので、これからもそういった点が出てくると思いますが、少しでも楽しんで頂けるよう努力していきます (2018年3月15日 7時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
まる - いつも楽しませて頂いてます!差し出がましいことを申しますが、細菌とウイルスは別物です!気にしないで読むつもりだったのですがどうしても気になってしまいコメントしました (2018年3月15日 2時) (レス) id: 8a313f8dce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Soll(ソル) | 作者ホームページ:http://ulog.u.nosv.org/home
作成日時:2018年2月18日 19時