ブリュレ【Shota.W Ren.M】

44.Raul ページ44

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思い知らされるのは、いつだって
自分自身の無力さだ。









「いいの。ラウがあそこで私を庇ったら
パパ、もっと逆上するでしょ。
私が殴られた時
ラウ、必死でパパを止めてくれたじゃない。
あれだけで充分だよ。」



自分よりずっと細い姉の腕が
僕の身体を強く抱きしめる。




彼女は、この家の誰よりも
1番大人だと思った。


強くて、優しくて
こんな酷い環境の中にいても
僕に対して笑顔を絶やさない。






「お姉ちゃん、なるべく早く家を出られるように
頑張るから。
そしたら、こんな喧嘩ラウに見せずに済むし
薬なんか飲まなくても
安心して眠れるようになるからね。」


ラ「………知ってたの？
俺が睡眠薬飲んでること。」



僕の言葉に、彼女が僕の頬を両手で挟むようにして
僕の瞳を覗き込んだ。




「ごめんね、ラウ。
ラウにとって、こんな環境良いはずない。
だからラウも、早く自立出来るように頑張るんだよ。
自分の身は、自分で守るしかないんだから。」



今1番怯えながら毎日を過ごしているのは
間違いなく姉のはずなのに


男だからという理由だけで
なんの被害も受けていないはずの僕が
睡眠薬を飲まずにはいられなくなってから
どれくらい経っただろう。





父親に、怯えているわけではなかった。


1番辛いはずの姉を守ることも
父親を咎めることさえ出来ない自分自身に
僕は絶望していた。


そしてあの日、目の前で
父親から暴力を振るわれている姉を見た日を境に
睡眠薬無しでは、僕は眠れなくなった。





「ラウ………そんな顔しないで。」


彼女が、再びぎゅっと僕を抱きしめる。


血の繋がった姉のはずなのに
何故か、少しどきりとした。




「ねぇ、ラウ。私たち、まだ子どもだけど
いつかラウが大人になって
本当に守りたい人が出来て
その人を守れるようになれたら
それでいいんだから。
だから、お姉ちゃんのことは気にしないで
ラウは自分のことだけ考えればいいの。
わかった？」


ラ「………Aちゃんて、本当に良い女だね。
めめが羨ましいよ。」



僕の言葉に、彼女は
少し困ったように笑った。






幸せに、なってほしいと思った。


彼女を、守ってほしいと思った。








僕には、出来なかったけれど。






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