【鬼滅の刃】救われない。【男主】

第28夜。 ページ28

懐かしい夢を見た気がした。

遠い昔の夢。
まだ、人間(・・)出会った頃の夢を。

〈＿＿涼雅、己を否定するな。強く、生きろ。〉

「雨月(うげつ)さん……。」

傍に丁寧に畳まれて置いてあるであろう羽織を手探りで探し、見つけるとしっかりと握りしめる。

白く美しい羽織には、霞草の絵が灰色で一本一本丁寧に袖に描かれている。

「俺が、光の呼吸を受け継いで、本当に良かったのか…？」

今となってはもう、会うことの叶わぬ相手を想い、朝霧は羽織を離さない。

朝霧は己に光の呼吸を受け継がせた先代の光柱を思い浮かべた。

雨月という男は家族を失い、行先を失った朝霧を拾い上げ、隊士として育て上げた今は亡き男である。

朝霧の羽織は、雨月から受け継がれたものである。

蟲柱･胡蝶しのぶが姉である花柱･胡蝶カナエから羽織を受け継いだのと似たようなものであった。

想いと共に受け継がれたそれは、朝霧にとって心の頼りであり、大切なものである。

「随分と大切にしているのですね、その羽織。」
「いつから居た、胡蝶。」

どうやら数日前にお目覚めのようですね、と部屋に入ってきた胡蝶は、不意に己の羽織に視線を落とす。

爆発しそうになる想いを必死に抑えながら、朝霧と向き合う。

「柱合会議で、あまね様から全て明かされました、貴方の事が。」
「……そうか。」
「この後、柱稽古が行われます。皆さん、その時に朝霧さんにお尋ねになるかとは思いますが、全て、答えてあげてください。もう、その時が来たんですよ。」


異常はもうないですよ、と丁寧に右腕の包帯を取り換えてやりながら、胡蝶はそう告げた。

それはもう戦場に出ても問題ない、と言うことを指していた。


「柱稽古には参加なされますか？」
「嗚呼、鈍った体を元に戻したい。」
「では、そうお伝えしておきますね。」

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