迷宮ラビリンス (ページ23)

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触れるだけのキスをページ23

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　お昼も食べ終えて、会社の屋上に向かう。
　先に食べ終えた松川さんに「屋上に来てね」と言われているからだ。

屋上と言えば、たしかにあまり人が行くほど綺麗でもなく、リフォームしたばかりの社食や喫煙所に行くので今の屋上は秘密の話をするのにはうってつけである。

　ギギ、と重たい扉を押し開けて外に出ると夏の日照りが肌を指した。陽を避けるように手を額に当てて視界が広がるように影を作る。

でも、光が床に反射して眩しさに目を細めた。
よくよく見ると、人影が目に入る。

きっと松川さんだろうと思って近づけば煙草の匂いが鼻に入った。この煙草の匂いは松川さんで間違いない。

すっかり覚えてしまった松川さんの煙草の匂い。

「松川さん」

　近づいて声をかけると松川さんは煙草を咥えたままゆっくりと振り返った。

「ん、ちょっとまってね。もうすぐ終わるから」

　そう言いながら煙を燻らせる。その横顔はいつ見ても妖美だ。綺麗、と思うし妖しく見える。
でもどこか、遠くを見ている気がする。

　吸い終えた松川さんが灰皿にグリグリと火が消えるように押し付ける。吸えるところを数センチ残して灰皿に押し付けるのが松川さんの癖。

「ごめんね。お待たせ。昨日のことだよね」
「はい……私、昨日松川さんと勝負していたことは覚えています。でも、その後どうやって帰ったか、曖昧で……」

　敢えて、及川さんから聞いたことは黙っておいた。

「まぁ、とりあえずは隣座る？」

　おいで、と松川さんが手を伸ばしてきた。松川さんの大きい手を取って隣に座る。