優しい秘密は私の心を打ち砕く ページ19
翌日、黒電話のアラーム音で目が覚めた。
いつものように手探りでアラームを止めて上半身を起き上がらせる。まだぼうっとする身体を無理矢理動かして下着を手に取りシャワーを浴びに浴室に向かう。
隣に松川さんがいた気がするのだが、昨日のことがうまく思い出せない。温かかった温もりは覚えている。シャワーを頭から浴びながら昨日どうやって帰宅したのか思い出そうとするが記憶が曖昧でいつ帰ってきたのかもわからず、そのまま考えつつ出勤した。
「あ、及川さん。おはようございます」
「おはようAちゃん。あれ?一人?」
「はい。一人ですけど……」
「そうなんだ」
及川さんは何か考えるように手を顎に添えて難しい顔をしている。何か、私が一人だと変なのだろうか。それともーー。一瞬、嫌な予想を考えたがありえない、とは言い切れないのがまた怖い。
それを及川さんに聞くのも、怖い。
だって、いつも及川さんが難しい顔をするのは松川さん関連だから。
エレベーターに乗り込んで、いつものように2階で降りる。デスクに着いてもまだ松川さんも英も来てなかったのでパソコンの立ち上げをしてコーヒーを淹れに給湯室に向かう。及川さんの顔はあれから見れてない。及川さんは時々怖い。人望は厚いし、基本的に優しい、愛想も良いし、仕事もできる。
そんな彼が何で怖いのだろうと、自分でも不思議に思っていた。ただ最初は松川さんはやめておけと言われた時に、ゾワリと背筋に嫌な汗が流れて本能的に怖いと、そう思った。でも、それきりでそのあとは別に何もない。
もしかしたら嫌われているのかな、とかも考えてはいる。でも、嫌いな人とお酒を飲めるだろうか。いや、仕事と割り切れば出来なくもないか。
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年5月9日 19時