. ページ18
.
暖かい温もりが頬に当たっている。ゆらゆらと揺れている。酔いが回っている身体はひどいだるさがあって動く気にはなれない。
重い瞼をゆっくり上げると初めに視界に入ったのは電柱、そしてふわっと香るタバコの匂いが混じった松川さんの匂いが鼻をかすめた。
「まつかわさん………」
呟くように、言った松川さんの名前。まさかおぶられて帰っているだなんて思っていない私は鼻をその人の背に擦り寄せて松川さんの匂いを嗅ぐ。
「くすぐったい」
私をおぶっている人はそう言って身をよじらせくすぐったいのかクスクスと笑っている。誰なんだろう、と顔を前に向けるが見えるのは髪の毛だけ。
でも、その髪の毛はすこしうねっていて、見覚えがあった。
でも、誰だったか、思い出せずにまた目を瞑り心地の良い揺れを感じながら眠りについた。
唇にすこし湿った暖かい何かが押し付けられている。すこししてその温もりはゆっくりと離れていった。逃すまいと私は手を伸ばしてグイッとそれに自ら口付ける。
首を上げていることに疲れて満足した私は再び柔らかい枕に頭を預けた。
そしてまた温かい何かが今度は額にあたり、すぐ離れたかと思えば瞼に、次に頬に行き、首を通って鎖骨で長く当たっているかと思えばほんの少し、痛みを感じた。
声を出すほどでもなく、本当に一瞬のチクリとした痛み。
瞼を持ち上げると、薄暗い中で誰かの顔が近くにあった。
「誰…………?」
返答はなく、代わりにまた、温かいものが口に当たる。その感触が妙に気持ちよくて強請るように離れたそれに再び口を寄せた。
「ん………もっと、」
「………悪い子だ」
聞き覚えのあるその声は酷く甘い声色で囁き、また温かいものが唇に当たる。
なんどもなんども、離れてはまた当ててきて、私もその人の首に腕を回し口付けを返す。
それが誰なのかも、わからずに。アルコールが回った私の体はただその温もりを求めていた。
38人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お湯 | 作成日時:2019年5月9日 19時