父親の存在 後編 ページ44
「はぁ、はぁ…」
森の中を枝に引っ掻かれながら
やっとの思いで私はあの楠の大木まで
辿り着く。
この真っ暗な森の中、
灯りも無しでよく此処まで来れたとは思うが、
自分の中の何かが私に感覚から教えてくれていたような気がした。
いや、きっとそうなのだろう…
でなければ地図すら読めない方向音痴の私にはまず辿りつけない。
「おい!山神様!
いるんだろ!!出てこい!!」
私は大声でそう叫び、
いるであろう存在を呼ぶ。
実質、私の父親らしいのだが、
私としては会った事すらない人物を
そう呼べる訳がない。
「おい!!」
もう一度声を張り上げようとした直後
突如ざわざわと辺りが煩くなる。
「人間、人間だ。」
「罰当たりな奴め…」
「美味しそぉ…」
妖と思える沢山の声が聞こえたと同時に、
足を黒い何かが掴んだ。
「っ、今、
こっちは取り込み中なんだけど!」
引きちぎろうと足を動かそうとしたが、
更に強まるその力。
「は、離せっ!!」
お清めしてやろうかと私が
手のひらをかざした直後、
「五月蝿い。」
そう後ろから
低めの男の声が聞こえた。
「〜、」
「あぁ…お前か。
また来るとは懲りない奴よ。
此処ら一体全て俺の物だと…
そう前に言った筈だが?」
その声を聞いてビクッと
わかりやすく震えたその妖。
「あぁ…いや、待て。
また、痛めつけられたいのか、
そうか、そうか、ククク。」
そう笑って彼が足でその妖を蹴り上げると、
ギャッと鋭い悲鳴をあげた。
しかし、未だにしぶとく私の足を掴むそいつ。
「なんだ?まだまだやられ足りないと?」
ニヤリと彼が笑った途端に
突如辺りの気配が変わり、
まるで体に重りでも乗せられているのかと思う程に空気が重くなった。
「っ、、」
人間の私が感じる程の気配なのだから
妖が感じれない訳がない。
とうとうそいつも私の足を離すと我先にと
一目散に逃げていった。
「ふむ、相変わらず逃げ足だけは早いようだ。」
その妖が飛んでいった先を見ながら、
そう彼は何の抑揚も無く口に出す。
「さて…」
くるっ振り返りジッと
私だけを見据えるその両眼。
「ぁ…」
「お前もこの時代の中
珍しく見える力を持つようだが…
こんな所で大声を出すとは…
よほどの死にたがりと見える。」
月光に妖しく照らされた
その顔に私は声が出せなくなる。
鏡の中で見た事があるその真っ赤な瞳孔は
彼の鋭い目つきをより一層際立たせ、
そしてその輝くような美貌は不機嫌そうに歪められていた。
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おぼろん(プロフ) - 豆腐の角さん» コメントありがとうございます!全然気にしないでくださいね。皆さんに見てもらえるだけでも嬉しいので!これからも頑張ります! (2020年11月7日 6時) (レス) id: a49c31890f (このIDを非表示/違反報告)
豆腐の角(プロフ) - 二章目おめでとうございます!初めの一票取れませんでした………。これからも頑張ってください!楽しみにしてます! (2020年11月6日 22時) (レス) id: d448052499 (このIDを非表示/違反報告)
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