宮廷絵巻ノ抄

5.Ki ページ6

Ki side




昭陽舎(しょうようしゃ)(梨壺)ーー。



御所である宮中には、七殿五舎の建物が配置されている。

その中で、次期帝となられる東宮殿下の居住地が梨壺と呼ばれる昭陽舎という建物だ。

現在、東宮殿下は独身なので、東宮妃はおらず専ら独身の宮様たちの遊び場になっているらしい。


そんな場所に、突然俺が呼ばれたーー。






Ki「あ、藤ヶ谷…様」


普段、まず足を踏み入れるコトはない建物に入った直後、今朝東門で会ったその姿を見定めて自然と足が止まる。


F「何故、お前がここに…？」

Ki「東宮殿下が、お呼びになられていると聞いて…」

F「彼奴(あいつ)…」

Ki「……⁈」


藤ヶ谷が、何か毒づいたような気がしたが、気のせいだと思い込んだ。





俺と藤ヶ谷が謁見の間に通されると、珍しく殿上の御簾が上がっていて驚いた。

通常、自分より身分が低い者に対して無闇に素顔を晒したりしない…相手が東宮殿下なら、尚更だ。

俺くらいの官位では、そのお姿を拝顔出来るのは、年に数回…宴の席で遠目に眺めるくらいだ。

でも…



女官「東宮殿下、お越しでございます」


藤ヶ谷と並んで座し、待っている間も手に汗が滲むほど緊張した。

衣擦れの音が近くなり、床の間を踏む音に嫌でも胸の鼓動が速くなる。


T「藤ヶ谷、北山……面(おもて)を上げよ」


許しが得られても、顔を上げるのに…また緊張した。

だって…



F「本日は、私共をお召しになられたと伺いましたが…」

T「…ん。今夜、2人は宿直だって聞いたから」

F「恐れながら東宮殿下、今夜私達の管轄は…」

T「この梨壺の警備…そうだよね？」

Ki「…⁈」


違う、なんて言える雰囲気じゃない…し、藤ヶ谷からまず発言したコトに驚いた。

自分より高位の者と対面した場合、こちらから話の口火を切るなんて不遜極まりない行為だ。


それだけじゃない。

目の前に鎮座する東宮殿下……その御名は、玉森裕太。

その名の通り、俺には宝玉のように光り輝く眩しい存在だ。


幼い頃より今上帝の後継ぎとして東宮に擁立された殿下の…それは、目を引く美しい容姿を初めて目にした瞬間、時が止まった。

こんな美しい人が、この世にいるのかと目を疑った4年前の自分は今も健在だ。



T「……宏光、、北山宏光」

だから、そんな憧れの存在が自分の名を口にした事実に頭がついていかなかった。


T「どうしたの？ ボーッとして…もしかして、オレに見惚れてた？」


……図星だった。

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