宮廷絵巻ノ抄

終章 ページ49

Ki side




4月・春真っ盛りーー


藤ヶ谷が、中務省に復職を果たした。

そして、恒例の春の除目で藤ヶ谷の官位昇格が発表された。


T「ミツ、もし元いた官省に戻りたいならオレが取り計ろうか？」

Ki「更迭ですか⁈」

T「そうじゃなくて、やっぱりちょっと…強引過ぎたかな？と」

宮内省での俺の風当たりへの配慮だったが、俺は丁重に断った。


Ki「陛下の後宮への入内内定も立ち消え、更には宮内省からも異動とあっては…我が父に顔向け出来ません」

それは半分冗談で、半分は事実だ。


俺にとって、陛下は今も憧れの存在だ。

陛下は、藤ヶ谷の復職を心から喜んでいるご様子で、以前よりもずっと意欲的に公務に取り組んでる気がする。

そんな御方に仕える日々は、やっぱりーー




F「なぁ、以前から思ってたけどさ…それって浮気だよな？」


何となく気付いていたが、かつて淡白だと思っていた藤ヶ谷は…実は、超が付くほど嫉妬深いと知った。

そして、我が内大臣邸へ訪れる頻度も格段に増えた。


Ki「浮気って…」

F「裕太の前で、どうせ毎日デレデレしながら勤めてるんだろ⁈」

Ki「あのなぁ…」


自分の感情を押し殺す天才のはずなのに、俺に対しては最近ちょっと調子が違う。


Y「あ、太輔…今夜も来てたのか」

最近よく来るなぁ、と呟く横尾さんにはもうバレバレだ。


F「あー、渉！」

Ki「横尾さんも、良かったら一緒に…」

Y「宏光様、私にはそんな無粋な真似は…」


意味深な笑みを浮かべて、早々に渡殿を消えて行った。




開け放たれた廂から見える西庭の桜が、丁度満開で柔らかな夜風に花びらが散る様は実に美しい。


F「見事な夜桜だな？」

Ki「あぁ」

F「こんな日々を過ごせるなんて、本当夢みたいだ」

藤ヶ谷が、嬉しそうに目を細める。


Ki「俺はさ、それで良いと思うよ。自分の好きなように生きても、それを受け入れてくれる人間は必ずいるーー」


俺や横尾さんのように、今の藤ヶ谷を当たり前のように受け入れる人間はきっともっと沢山いるはずだ。


F「今夜、襲われたいのか…宏光⁈」

あっという間に、藤ヶ谷に引き寄せられて…俺はその腕の中に閉じ込められる。

Ki「おぃ、ちょっと……ゥンッ、、ゥンンンッ！」


性急に唇を塞がれて、俺は身悶える。

藤ヶ谷の愛情表現は、実はとても分かり易い。


F「宏光、今夜泊まっても…」


最後まで言う前に、再び俺は藤ヶ谷に唇を塞がれ、蕩けるような接吻に溺れていった。



『宮廷絵巻ノ抄』完

あとがき→←17.Ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す