宮廷絵巻ノ抄

4.Y ＆ Ki ページ28

Y side




内大臣邸・車宿(くるまやどり)裏ーー。



Y「太輔も、あんな風に取り乱したりするコトあるんだな…」


明らかに不機嫌な様子の太輔は、憮然とした表情で車宿の篝火を見つめる。



Y「何だよ、良いトコで邪魔したの…まさか怒ってんのか⁈」

F「別に…」


主人の供をして、宮中より内大臣邸に戻った矢先…太輔の来訪を知った瞬間、俺だって驚いた。

太輔が内大臣家を訪れるのは、確か俺が北山家に仕えるようになってからは初めてだ。


そんなにも…太輔は……



F「渉が来てくれて…いや、どうせずっと控えていたんだろうけど、来てくれなかったら、オレ…」

Y「随分とまた追い詰められてるな、太輔？」

F「だって、あんなの…」


太輔の来訪の理由は、一つしかない。

我が主人(あるじ)である北山宏光が、血を分けた兄弟…今や今上帝となった相手に奪われるのが耐えられなかったからだ。

後宮に入内(じゅだい)したら最後…そこで待つのは、肉体を陵辱されるだけの愛のない生涯だ。


Y「太輔、試されてるな…陛下に」

F「北山がそんな目に遭っているのも、全部オレのせいだ…オレが、」

Y「みっちゃんに惹かれなければ、確かに一連の出来事はなかったかもな？」

ならさ、と俺は笑ってみせる。

Y「太輔が、先にみっちゃんを囲っちゃえば良いんじゃないか？ 太政大臣の藤ヶ谷家嫡男の愛人なら、決して悪い話じゃない」

F「やめろ、渉！ そんなコト、出来るはずがない。第一、北山が見てるのは…オレじゃない」

Y「本当、世が世ならなぁ…」


幼い太輔が背負った残酷なあの運命は、あれから10年以上の月日が流れた今でさえ…変わらず成人した太輔を苦しめているんだと嫌でも分かる。


F「渉…我が邸に戻って来て欲しい」

Y「今夜の太輔は、弱気だな？」

F「渉が藤ヶ谷家を去ってから、オレの周りには…苦しくたって、胸の内を明かせる相手は誰もいない」


太輔が晒されている現実…そして、これから待つ未来は、決して生易しいモノじゃない。

それは、本人が一番分かっている。


Y「太輔、お前の身に何か起きた時は、俺は力になりたいと思う。例え北山家に仕えていても、それはずっと変わらないよ」
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Ki side



宴席を中座したままの藤ヶ谷を探しに車宿に来て、とんでもない立ち話に遭遇してしまった。


Ki「おぃ…嘘、だろ……」


俺は、思わず立ち尽くす。


まさか、あの…藤ヶ谷が……

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