宮廷絵巻ノ抄

10.F ＆ Ki ページ11

F side




あの夜、北山を玉森の寝所へ向かわせたのは意図的だった。


あの夜は、何かが変だった。

オレの直感が、梨壺内部の方が安全だと訴えていた。

だから、北山に指示した。


北山は、剣術が得意な方ではない。

北山の身に何かあったら、到底オレは耐えられない……なのに、だ。




今上帝「今宵の夜桜は、また格別の美しさ…皆、大いに寛いで春の訪れを楽しんで欲しい」


凛としたその声が、宴の場である紫宸殿の寝殿に響いた。


オレと…寸分違わぬ声……


今上帝の姿を知る者は、オレを一目見るだけで誰もが息を呑む。


そりゃそうだ。

オレだって、その姿を見る度に胸が騒つく…まるで、我が身を見ているようだ。

でも、今夜は他に気になるコトがあった。



女官「どうぞ、お酒を…」

F「あぁ」

気が付いたら、手にしていた杯の中の酒が無くなっていた。


M「藤ヶ谷殿、今宵は見目麗しい姫君たちが目白押しですね。どなたか気になる方でも？」

F「いや、別に…」


隣席の宮田が、声を掛けて来た。


太政大臣を務める養父は、このような公式の宴席でオレを上座に着かせるコトがある。

だから、官位正一位の太政大臣よりも、従四位のオレが宮家の隣席に着くコトになる。

通常、有り得ない席次だが、オレが元宮家の血筋となっている以上、誰も異を唱える者はいない。


M「さすが帝が開かれる宴は、招かれる姫君も素敵な方ばかりで…」

自分は玉森にしか興味がないクセに、よく言うな…と関心していると、

M「今宵、内大臣家の宏光殿はどなたをお選びになられるんでしょうね」

F「…どうでしょう」

宮田の探るような笑みから目を逸らすと、オレは北山の席に視線を向ける。

そして、ハッとした。


M「これから、南庭の演舞場で踊り娘達による春の訪れを祝う舞が始まりますが、今宵舞うのは…」

宮田の話なんて、どうでも良かった。


ーー北山がいない。

そして、いつの間にか玉森の姿も宴席から消えていた。

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Ki side




東宮殿下からの文を胸元に忍ばせて、頃合いを見計らって宴席を立った。


今夜、父上から結婚相手を見定めるよう言い渡されている俺が宴を中座したところで、誰も気にしたりしない。

それが、逆に好都合だった。



紫宸殿を抜け出して、梨壺に向かう手前にある綾綺殿(りょうきでん)を目指した。

その橋殿で、憧れのその人を見つけた。


T「あ、やっと来た。待ってたよ…ミツ？」

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