2皿目 ページ6
「……あっ！」
カラカラと音のする引き戸の方を見れば、この間の彼の姿。
相変わらずキャップを被っていて、だけどすぐそこから来たというような軽装。
一体何をしている人なんだろうかと考える私の方を一瞥すると、彼は「あぁ」と納得したように小さく二回頷いた。
夜遅くまで店を開けていた、そんな平日の夜。
おじいちゃんの店は本当に気分次第だから、お客さんがいればずっと開けっぱなしにしてるようなこともある。
私は大学の授業の都合に合わせて手伝いに来ているから、平日のことはあまりよく知らないけれど。
「空いてる席、どうぞ」
「……どうも」
「いまお茶出しますね〜」
時計の針はもう23時を回ったところで、夕飯時のピークはとっくに過ぎた。
今は小皿のおかずをおつまみにしてビールを飲んでいた大学生らしき二人組しか居なくて、その二人ももう帰りそうだ。
そう思って様子を伺っていると、ちょうど「Aちゃん、お会計ー」と呼びかけられる。
「あ、はい、お会計ですね」
「Aちゃんも一緒に飲めばよかったのに」
「あはは〜……」
「じゃあ今度さーー」
酔っ払い、面倒だと思っていると奥の席に座った彼から「あの」と声がかかる。
私はわざとらしいくらい大きな声で「はーい」と返事をすると、酔っ払いの背中を押しのけるようにして店の外に出して「またのご来店をお待ちしてます」と言ってほとんど無理矢理扉を閉めた。
「すみません、お待たせしました」
「…………」
「……もしかして、助けてくれました？」
「は？」
「あ、いえ、私が勝手に助かっただけですね
でも、ありがとうございます」
お礼を言う私を彼が少し首を傾げながら見つめるので、妙に慌てた気分になる。
勘違いしてたみたいだ。
「私、本当はお酒出したくないんですよ。
やっぱりおかずに一番合うのって、
お酒じゃなくて白米じゃないですか？」
続ける言葉に困ってまた余計なことを言う。
やっぱり私、口から生まれてきたのかも。
彼は私の言葉に一瞬ぽかんと口を開けて、それから何か堰き止めていたものが瓦解したように、くつくつとお腹を抱えて笑い出した。
「……それは、確かにそう」
ひとしきり笑い切った彼がそう呟いて、それから目深に被っていた帽子を取った。
明るい髪が零れ落ちるように飛び出してくる。
お客さんは、もう彼だけだ。
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svt11117(プロフ) - ほんとにすごく今更だけど、何故か急にこのお話のこと思い出して無性に読みたくなっちゃって漁りまくって読み返しちゃいました！初めて読んだ時と変わらずとても面白くて一瞬で読んじゃいました笑笑 自粛期間の私の唯一の楽しみでした、ありがとうございました､!! (2023年3月10日 20時) (
レス) @page30 id: 45166a94c7 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - あやまろさん» コメントありがとうございます。書きながらちゃんと面白いのだろうかと思っていたので、そう言って頂けてうれしいです。引き続きよろしくお願いします！ (2020年11月8日 22時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
あやまろ(プロフ) - 初コメさせていただきます！今1番更新が楽しみな作品で更新される度ニヤニヤして読んでます笑 そして何よりお忙しい中更新してくださってありがとうございます！ (2020年11月8日 17時) (レス) id: 74f0e4a445 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - ★たくさんお気に入りしてくださってありがとうございます！このお話は年内に完結するようにがんばりたいと思います。また別のお話や短いお話も書きたいなと思っています！ (2020年11月5日 19時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - めぐさん» お返事遅くなってすみません！コメントありがとうございました……！まただいぶ間隔があいてしまいましたが少しずつ進めていけたらと思っています。これからもよければお付き合いください！ (2020年10月17日 4時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：my | 作成日時：2020年2月16日 0時
