4皿目 ページ16
「……来ない」
ため息混じりに吐き出すと、友人は「いつもこの講義始まるの遅いじゃん」と、手鏡を見つめたままで言う。違う、そうじゃなくて。
「違う違う、教授じゃなくてぇ」
「え? じゃあ何?」
「ん〜……何でだろうなぁ」
「え、A、もしかして男?」
「あ〜……まぁ、
男の人っちゃ、男の人なんだけど」
鏡から顔を離し、ようやくこちらを向いた友人は「A、彼氏できたの!?」と声を上げて色めき立っている。彼女の声に、講義室の何人かがこちらを振り向く。
だから違う、そうじゃなくて。
「違う違う、そういうんじゃない」
「えー、つまんない
じゃあ何なの?」
「おじいちゃんの店に来てた人で
ちょっと話すようになった人がいたんだけど」
「うんうん」
「最近来ないんだよねー……」
「何それ好きな人ってこと!?」
再び大きな声を上げるから、たまらず「声が大きい!」と、私も声を上げる。
教授不在の講義室はまだ雑談の声に塗れていて、それほど目立たないからよかった。
爛々とした瞳でこちらを見つめる友人は、私の話を珍しがりながら聞きたがっている。
「どんな人なの? かっこいい?」
「ん〜……どうだろ
顔ちゃんと見たことないかも」
「はぁ? よく来る人なんでしょ?」
「いつもキャップ被ってるから
あ、オッパだよ。あと社畜っぽい」
「なにそれ、怪しすぎでしょ」
「全体的に色素薄い感じで……
小柄だから、見た目は可愛い感じかな?」
「まぁ、ただのお客さんだし、あっちも私のこと店の孫だとしか思ってないと思うけど」
きっと名前も覚えてない。そう思ったら、少し、ううん結構寂しい。お店の外に出たらもうきっと、彼は私のことを思い浮かべたりしないんだろう。
私はこうして、彼の話をしているというのに。
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svt11117(プロフ) - ほんとにすごく今更だけど、何故か急にこのお話のこと思い出して無性に読みたくなっちゃって漁りまくって読み返しちゃいました!初めて読んだ時と変わらずとても面白くて一瞬で読んじゃいました笑笑 自粛期間の私の唯一の楽しみでした、ありがとうございました、!! (2023年3月10日 20時) (レス) @page30 id: 45166a94c7 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - あやまろさん» コメントありがとうございます。書きながらちゃんと面白いのだろうかと思っていたので、そう言って頂けてうれしいです。引き続きよろしくお願いします! (2020年11月8日 22時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
あやまろ(プロフ) - 初コメさせていただきます!今1番更新が楽しみな作品で更新される度ニヤニヤして読んでます笑 そして何よりお忙しい中更新してくださってありがとうございます! (2020年11月8日 17時) (レス) id: 74f0e4a445 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - ★たくさんお気に入りしてくださってありがとうございます!このお話は年内に完結するようにがんばりたいと思います。また別のお話や短いお話も書きたいなと思っています! (2020年11月5日 19時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - めぐさん» お返事遅くなってすみません!コメントありがとうございました……!まただいぶ間隔があいてしまいましたが少しずつ進めていけたらと思っています。これからもよければお付き合いください! (2020年10月17日 4時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:my | 作成日時:2020年2月16日 0時