終天に巡り逢うⅣ (ページ31)

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Aが顔を上げる。自分と同じだった紫暗の瞳は、吸血鬼特有の真っ赤なものに変わっていて。
俺の血がついた唇がほんの少し、震える。

『…兄さん』

「…ごめんな。俺なんかが、おまえの兄貴で」

『、』

何かを言おうとしてAは口を開いたが、再び閉じてしまう。
何も言わないまま彼女は俺の腕の中から抜け出し、少し視線を下げる。

『…私は、』

「、」

『兄さんの妹で良かったかなんて、正直分からないんだ。…でもたぶん、』

「…」

Aは一度言葉を区切って、そして息を吸い込むと俺を真っ直ぐに見据えてゆっくりと口を開く。

『…兄さんのことを、

＿＿＿誇りには、思ってたよ』

「っ！」

思いがけない言葉に目を見開き、ぐっと唇を噛み締める。
彼女に一つも兄貴らしいことをしてやれなかったのに。それでも俺のことを誇りに思っていただなんて知らなかった。
ずっと、憎まれてると。疎まれてると。恨まれていると。

『だから、何があっても立ち止まらないでよ。たとえどんなことがあっても、それは兄さんが進むと決めた道だから。私は、何かに向かって突き進む兄さんのことを誇りに思ってた。凄いって…尊敬してたんだ。…これは、嘘じゃない。本当だから』

「A…俺は、」

Aは一歩後ろに下がる。思わず手を伸ばそうとして、それを彼女が望まないと思い…やめる。
それに彼女は微笑む。

『私はもうロシアに帰るけど…もし、何かが起これば私たちは出てくるよ。その時は…たとえ兄さんでも容赦しないから。私の大切な人たちを害するなら、たとえ血の繋がりがある兄さんでも許さないよ。もしそんなことをしたら…兄さんのことを、殺すからね』

「、」

そう言って、もう一歩後ろに下がったAの隣にウルドが歩み寄る。そして、Aは微笑んで彼の手を取った。
つまり、ソイツがその大切な人なのだろう。

『________ばいばい、兄さん』

「っA…！！」

晴れやかに、綺麗に笑ったAの瞳から一筋の涙が頬を伝う。
ウルドの指がそれを拭い、そして隠すようにAを抱き上げるとこちらを一瞥し、何も言わずに去って行った。
行き場を失った手が宙を彷徨い、力なく下ろす。

「A…っ」

涙を流した彼女は、ひどく美しくて、儚くて。
もう、本当にいなくなってしまった俺の妹。
手の届かない存在になってしまった、俺のたった一人の家族。
今更俺に、彼女のことを乞う資格なんて、ないけれど。

「A」

でも、俺は。