ミステリートレイン2 ページ9
「はい、水と頭痛薬――。昨夜何時まで飲んでいたんですか。というか、どうしてここにいるんです?」
個室に入ってきた沖矢さんが露骨にため息をつくけれど、それは私が知りたい。
そういえば、駅で朝一番に顔を合わせたときに、ものすごく嫌な顔してたよね。
私と有希子さんは、沖矢さんとは別ルートで駅にきている。
そもそも、私は今日沖矢さんまでミステリートレイン(しかも同室)に乗るなんて知らなかった。
ミステリートレインの行先については、いつかの席で雑談程度に話しただけだ。
「それは、有希子さんに言って?」
「どうして断らないんですか?」
珍しく、シュウは私に対して本当に怒っているようだ。
感情的に言い返すのは得策ではないだろう。
私は頭痛薬を飲んだ後に、口を開く。
「有希子さんに対して、断る方法を持ち合わせてないからです。
だいたい、有希子さんと二人旅したかったなら最初からそう言ってあげてたら私のことなんて誘わなかったんじゃないの? 有希子さんはあなたの大ファンなんだしっ。
頭痛が止んだら部屋を移るからちょっとだけ待って。蘭ちゃんのところか、子供たちのところにでも行くわ」
沖矢さんは目を丸くして――しばらく私の言葉を咀嚼した後で
「いや――誤解させたならすまない。そういう意味じゃない」と言うとため息を吐き出した後でそっと私の手を掴んだ。
全く何が何の意味じゃないのかさっぱりわからないし、私は沖矢さんとは恋人では居られないので別に誰と何をしてもらってもそこまで拗ねない。
5分でいいから眠らせて欲しくて、窓の方に顔を背けて目を閉じれば、大きな掌が私の肩をそっと撫でて後頭部にキスが落とされたのを感じた。
「旅行を楽しむならAと二人きりがいい。いつでも観光に連れて行ってくれと頼んでいるじゃないか、忘れたのか?」と耳元で囁かれても困る。
覚えているけど。あれは、当初シュウのことを観光客だと信じていたから日本の見どころを伝えたまでだ。
でも、こんな豪華な列車に乗るのに、旅行以外の目的がある? 密談? それとも、この列車のイベントの1つである謎解き?
じわじわと薬が効いてきたのを感じて、やむなく私は沖矢さんの手に、自分の握られていない方の手を重ねる。起きていることを伝えるためだ。口を開く元気はない。
「この列車は君が想うよりもずっと危険なんだ――なぜなら」
と、真剣な声音で言いかけたときに沖矢さんのスマホが鳴った。
121人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時