敵の敵4 ページ38
ジョディの家に泊まった翌日。
仕事の引継ぎ、新しい業務の検討、取締役会に向けての打ち合わせ、会社では普段の業務以外にやることが山積みだ。
「君にしては珍しく、疲れた顔をしているじゃないか」
どうせ君の個室になるんだから、使えばいい。遊ばせているのはもったいないと言われた部屋で資料を眺めていたら、社長がやってきた。
30代で時代の寵児としてメディアにがんがん出ていたという彼は、もうすぐ50歳になろうかという今も、フレッシュ感溢れている。
「社長はいつもお疲れの様子一つなく、羨ましい限りです。斎藤長官、お元気でしたか?」
「ああ、相変わらず君のことを引き抜きたがっていたから、うちで育てますと言っておいた」
なんてくつくつと笑う。ろくでもない人だ。
「お手柔らかにお願いします」なんて言葉はきっと、社長の耳には入らないよね。
「それはそうと、新たな取締役がはいることになってちょっと厄介なんだ。どうしても、関連会社からの意向で断れなくてね。外部取締役だから基本入ることはないと思うが、念のため君にお願いしておきたいことがある」
なんて、その日私は社長から、ちょっと物騒なことを持ち掛けられた。
物騒なことはプライベートだけにして欲しい。
なんて言えずに私は、やむなく社長命令を引き受けることにした。
.
仕事を終えて外に出たら、いつものジャケット姿の沖矢さんとジーンズにTシャツといったラフないでたちの近江谷君が一緒に居るから目を丸くして驚くほかない。
「……ちょっと、何やってるの?」
「姫のお迎えにあがりました。そうしないとすぐにどこかに行ってしまうから」とおっとり微笑むのはやめて欲しい。
梅雨も明けてずいぶん暑くなったのに、涼しげな顔でハイネックを身に纏っているのはさすがといったところだけれども。
「迎えは……。迎えは嬉しいけど、近江谷君は必要ないよね?」
健全な一般市民を巻き込まないでくれるかな。
「近江谷君じゃないって言ったら?」
と、私の目の前でどう見ても元彼の近江谷君でしかない人が意味不明な言葉を口にする。
――言われてみれば、おそらくジムでは繁忙であろう時間帯に近江谷君がここに居るのは不自然だ。
「オレのこと、心配してくれて嬉しかった」
一瞬ぼうっとした隙に、近江谷君が私の耳元に唇を寄せてキッド君の声で話してきたので目を瞠る。
「いたたたた……っ。ちょ、昴さん。耳はダメだって。そこ引っ張ったらいろいろやばいから。痛っ」
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時