トラップ2 ページ28
「Kitty、君は今日、俺と降谷君以外の誰かとキスをした?」
電話をスピーカーモードに切り替えてそんなこと問うのずるい。
私のスマホだし、発信先は「降谷零」だ。
だいたい、途中で運転代わってくれるんじゃなかったの? いつの間にこんなところに――。
「A?」
電話の向こうで零の声がするから、いつまでも黙ってはいられない。
「――だって、あれはまさかキスするなんて思ってなくて――。
事故だもん。別に、浮気とかじゃないし……っ」
「ほぉ、事故ねえ……」
煙草を灰皿位押し付けたシュウはベッドの上にあがり、後ろから私を捕まえる。
「A?今、どこ?」
零は私がミステリートレインに乗車していたなんて知らない、はず。
でも、矛盾が起きないように、沖矢昴のことを伝えないように、事実を伝えるのは、寝起きの頭にはかなり難易度が高い。
「シュウと一緒だから大丈夫」
ここが工藤邸だなんて言えるわけもない。(そもそも、この部屋が工藤邸ではない可能性もある)
「君が事故と言い張るなら、ますます君から目を離すわけにはいかないな。
事故に遭わないように守ってあげないと」
耳の傍で囁くのも、その指先で私の首筋を意味ありげになぞるのも、絶対にわざとだ。
「大丈夫、だから。
家に帰して? だって零だってもう帰宅できるよね?」
「そうしたかったんだが……すまない、Aっ」
電話の向こうの零はとても歯切れが悪かった。
「ほら。降谷君には君よりも優先すべき事項が山積みだ。
でも、もう俺は君を一人にはさせておけない。
――だから、ここで暮らして」
そう言って、シュウは私の耳の裏に舌を這わせた。
「ん……っ」甘い声が漏れそうになって、慌てて掌で唇を覆う。
「A?」心配そうに私の名前を呼ぶ零の声にこたえるすべがない。
駄目だ。シュウの手が当たり前みたいに私の服の中へと潜り込んでくる。
「シュウ?」
「どうした? 君がここに居ると言わないと、降谷君は心配して電話が切れないんじゃないか?」
ごく普通の口調でそう言った後、彼の舌先は私の首筋の――とても弱いところを攻めてくる。
「はぁ……っ」思わず息が漏れ、慌てて奥歯を噛みしめた。
私の力ではシュウを押しとどめることができないし、列車内でのキスのことを思い出すと、とても途中で許してくれるとは思えなかった。
零に電話を切ってもらうしかない。
「あのね、零。私、しばらくシュウと一緒に居る。その方が安心だから」
121人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時