ミステリートレイン10 ページ17
「どうして【赤井秀一】に――」
部屋に戻りながら、沖矢さんが呟いた。
「でも、多分零じゃないと思うよ」私は鼻高々に、情報を渡す。
「ほぉ――。どうしてそう思うんですか? 詳しくお聞きしたいですね」
きらりと沖矢さんの眼鏡が意味ありげに光った。
「レイって何? 幽霊でも出たの?」部屋の中に有希子さん(が変装した美女)が居て、ドキッと心臓が跳ねた。
「ええ、そうなんです。私のゴーストらしき男を、彼女が列車内で見かけたと。
有希子さん、心当たりはありますか?」
沖矢さんはものすごくナチュラルにそう言うと、「怖い思いをさせましたね」と私を腕の中に抱き寄せた。
――多分、有希子さんに私の顔を見せないためだと思う。考えたうえでの嘘は下手ではないが、とっさの嘘は苦手な方だ。
シュウはよくわかっている。
「なんで今更。ファンのコスプレかしら? そうでなければ、あなたの生存を疑っているとか? 人気者は困るわね」有希子さんが言う。
もう平気、落ち着いたわ、と彼の腕の中から抜け出した私はサングラスをかけたまま席に座る。
本人の姿をして生死を確認するという発想が、私にはかなり意味不明だが、プロの目から見れば違う反応が伺えるんだろう。(だって、死んでいると思っていた本人が目の前に出てきたら驚くし、生きていると思っていても最近会ってない人が急に目の前、しかもレアチケットを持たないと乗れない列車内で偶然現れたらやっぱり驚く――よね? さっき、キッド君だって私を見て本気で驚いていたし。)
零が今更赤井秀一の生死を疑うわけがない。
やはり、キッドの言う通り、零ではない他の誰かが変装していると考えた方が妥当だろう。すれ違ったほんの一瞬で、よくそんなことに気が付いたよね。今度、お礼にご飯にでも誘った方がいいかしら。――その時は、面倒なので沖矢さんも一緒に誘おう。
そんなことを考えていたらふと、ひらめいた。
「ね、赤井秀一の家族情報、組織の誰かが持ってたりする?」
「まあ、調べればすぐにわかるでしょうね」沖矢さんが言う。
「もしもそうだとしたら、マスミが危ない――かも」
「真純が乗っているのか?」動揺のあまり、沖矢さんの口調が変わった。
「うん、多分。蘭ちゃんに確認してみようか? 別に私はここに乗車していないふりをしてもいいし」マスミ、キャンプに行ったときにものすごく興味を持っていたから。あの感じだとなんとかして乗車しているんじゃないかしら。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時