information10 ページ40
「昴さん、何かあった?」
彼の顔を見上げればいつもと変わらない笑顔でくしゃりと私の頭を撫でた。
「ええ。いつもあなたをこんなに困惑させているのだとようやく気付いたので、そのお詫びもかねて。いけませんか?」
いけなくはないけど、人通りの多い街中の信号待ちで、路上でのキスはやめて欲しい。
「ねえ、誰かに見られたらどうするの?」
「全く気になりませんけど。ああ、もっと濃厚なキスを見せつけたいって話なら、のりますよ?」
話が通じないのは、夏のうだるような暑さのせいだと思いたい。
――今の私の見た目は『江戸川A』じゃないってこと、わかっているのかな。
むっとした私の頬を昴さんは撫でた。
「浮気していたよ? って誰かから密告されても、あなたが聞き流してくれるならそれで十分」
「……あのね」
何を言っても、事態は変わりそうにない。
「そもそも――」
パンケーキ屋に向かいながら、昴さんは続ける。
「何もなくてもいつだって、あなたをより一層甘やかしたい気持ちでいっぱいです。いい加減に諦めて24時間いつでも甘えてくれればいいのに」
怖いほどの溺愛ってこのことかしら。
抱えきれないほどのパンケーキを買おうとする昴さんをなんとか押しとどめる。
「ねえ、そんなに甘やかされても私がお返しできないよ?」
そう言うと彼はふわりと笑った。
「Aさんが傍に居て、楽しく笑ってほしくてしていることでお返しなんて不要です。さて、練習に行くのは明日にして今日は帰りましょう」
昴さんは一緒に歩くだけで私の疲労度を測ってスケジュールを立ててくれる。
「昴さん。私ちゃんと『別人』に見えているかな」
車に乗った後そう聞いてみた。
「ええ、見えますよ。
でも、難しかったらモデルを設定してもいいかもしれないですね。
漠然とした誰かになりきるよりは、ずっとスムーズです」
「――有希子さんとか?」
他にマネできるほどの適当なモデルが思い浮かばない。
「ああ、それは良いですね。買い物が楽しくなりそう」
……もう少し、別のモデルを探すべきかしらと考えながらあれこれ話しているうちに、車はスムーズに家についた。
123人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年8月1日 15時