夏祭り8 ページ15
「ああ、そうだな」応える昴さんももちろん英語だ。
もしかしたら本当はその姿と声に合わせて、「ええ、そうですね」と言っているのかもしれないが、そのあたりは私の和訳なので、ニュアンスは適当に聞き流して欲しい。
「せっかくFar East(極東)まで俺が直々に出向いたんだから、観光の1つでもさせろよと言いたいところだがそうもいかないんだろう？」
「観光なら空き時間に一人でどうぞ」
昴さんの返事を青年は華麗に聞き流して、私に視線を移す。
「やあ、Lady。初めまして。お会いできて光栄です。それにしても、世界はこんなに広くて俺みたいに素敵な男もいる中で、こんな奴に捕まるなんて気の毒に」
サングラスを外すと綺麗な碧眼が露になった。モデルか芸能人と言われても納得できるほど容姿の整った美青年は人当たりの良い笑みを浮かべる。ごく自然な流れで私の手を掴みキスしようとするのを、昴さんが遮る。
「J 、ほんっと、そういうところ――。だから彼女には会わせたくなかった」
「でも、万が一の場合、俺の存在を彼女が知らないと困るだろう？
お前にとって信頼に値する相手が俺しかいなかったのが最大の問題だったんだよ、今更どうにもできねーから諦めろ」
そう軽口を叩くと、改めて私に視線を向け、「乗り換えるならいつでもどうぞ、こいつよりはずっと使える男だと自負しています。Jって呼んで」とJは英語で語り掛け、微笑を見せた。
「……えっと、初めまして、Aです」
もちろん英語でそう言うと、Jは形の良い瞳を丸くした。
「Lady、そんなに簡単に見知らぬ人相手に名乗っちゃダメって学校で習わなかった？日本の教育どうなってんの。まあ、俺みたいにどこからどうみても紳士相手なら心配ないけど、悪い人にさらわれちゃうよ？――お兄さん、心配だなぁ」とJは流れるように語り、にこりと微笑みかけてきた。
通りすがりの女性2人組が立ち止まってその容姿にうっとりしているくらいなので、多分間違いなくJはかっこいい部類なのだろう。
私がちょっとドン引きしているせいで、その姿を客観的に判断できないだけで。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年8月1日 15時
