夏祭り7 ページ14
「本当はAに会わせたくない人物がいるんだが――」
昴さんが、赤井さんの口調でそう言ったとき、私は一瞬、「会わせたい人物」の聞き間違いかと思った。
米花商店街のお祭りから離れ、いったん帰宅して洋服に着替えた私たちは、今昴さんが運転する車に乗っている。徐々に暗くなっていく中で、車は迷いもせずどこかに向かって進んでいた。
「今日って東京で大きな花火大会があるんだよね？」
どん、と遠くから鳴り響く花火の音が私を怖がらせることはもうない。
「そう。――だから人の目が少ないんじゃないかってあいつは言うんだが――」
「誰？ 女性？」
昴さんがものすごく歯切れ悪く言うくらいだから、元カノとかそういう人かと思ってドキリとする。
「いや、男だ。FBIの切れ者にして変人――。
悪い奴じゃないが良い奴とは言い難い」
「昴さんの友達？」
よほど信頼している相手でなければ、FBIだからってそうも簡単に正体を明かしたりはしないだろう。
だって、ジョディさんは「赤井秀一は亡くなった」って言ってたもん。
ましてや、直接会うなんて。
「――まあ、そうだな。頼りにしているよ。――あいつの仕事の腕だけは。
実際、『沖矢昴』の過去情報を捏造して、ネットのあちこちにばらまいてくれたのもあいつだしな」
そんなわけで、私たちは今、羽田空港にいる。
長めの金髪をかきあげ、サングラスをかけてひどくラフな服装をした細身の美形青年が迷いもせずこちらに歩いてくる。
「J(ジェイ)、相変わらず派手だな――」
昴さんがぼそりと日本語で呟いた。
「久しぶり」と、青年が英語でいう。
昴さんと同じくらい背の高いその人は、ものすごくキラキラしたオーラを振りまきながら、スーツケース1つ持って実に身軽な感じで声をかけてきた。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年8月1日 15時
