夏祭り5 ページ12
「急に引っ張ってしまって……けがはありませんでしたか?」
マスク着けていることを忘れているのか、わざとなのか。
私の耳元に唇を近づけて、昴さんが問う。
「うん。びっくりしたけど、けがはないよ? ありがとう」
私が、人が走ってくることに気が付かなかったのは祭りの賑わいのせいだけではない。
目に映った拳銃型のおもちゃが――自分でも驚くほど怖かったのだ。
この夏は何度も本物の拳銃に触れ撃つ練習をしているというのに、まさか、ふと目にした拳銃型のおもちゃを怖いと感じるとは思わなかった。
昴さんがそっと私の右肩に手を回すところを見ると、気づいてしまったに違いない。
「怖いって言っていいのに」
「――子供たちがあんなに楽しそうに遊んでいるのに?」
「君はいつも、人のことばっかりだ」
「そんなことないよ」子供のおもちゃにまで身体がすくむなんて、自分でもあまり認めたくはなくて話題を変える。
「あ、もしかして昨日の合コンのこと? だから、あれは由美さんがものすごく困っているって深刻な顔で話しかけてきたから聞いてたら、うっかり巻き込まれただけで――」
「うっかり巻き込まれて、そこに君のファンがいたという話?」
――まさか、たまたま連れて行かれた合コンで、『江戸川さんの本を読みました!気に入りました』みたいな人がいるなんて思わなかったんだもん。
だから隙を見て電話したし、迎えに来てくれたじゃん?
そうしたら、その頃には既に出来上がっていた由美さんがやたら絡んできて、私を迎えに来てくれただけだったはずの昴さんを引き留めて返さなかっただけで……。
「まあ、確かにあの人の迫力には敵いませんね」
肩をすくめると話は終わったとばかりにマスクを外す。
私はまた、昴さんを引っ張ってはあちらこちらの出店を見て歩く。
マスクを外すと、唇の動きを確認しないといけないので、いつもよりずっと距離が近いし、ずっと彼を見ていることになる。
心配だから、手も外せない。それでもつい気になるものがあるとふらっと離れちゃうこともあるけれど。
すぐに我に返って振り向けば、大抵、昴さんは眼鏡越しで穏やかに私を見つめている。
――これはもしかして、今日だけのことじゃないのかもしれない。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月1日 15時